小野測器は、同社の強みである計測技術の知見を活かし2023年6月に電動車両の「ベンチマーキングレポート販売」の事業を開始したことを発表した。それに併せてメディア向け説明会が開催されたので、その内容をお届けする。
現在、多くの自動車メーカーが脱炭素社会の実現のため、電気自動車(EV)をはじめとする次世代自動車の開発に積極的に取り組んでいるが、そこで重要視されているのがベンチマークとなる「競合他社の車両データ」だ。
「ベンチマーキング」とは、同じプロセスに関する優良事例を分析し業務効率向上へとつなげる手法で、業界の現状を知ることができるほか、的確な目標の設定や製造工程などトレンドの分析情報、業界における自社の立ち位置を把握することができるようになる。
国内自動車産業は長年、「垂直統合型」のビジネスモデル形態であり、基本的に他社はライバルの関係性であったと小野測器では説明する。しかし、近年では燃費規制強化や排出ガス規制強化、自動運転やシェアリングサービス、電動化など課題が山積する中、それらの急速な対応が求められる状況となっており、他社から発売されるベンチマーク車両についての調査に各社のリソースが追いついていけない現状があるという。
そうした中で、多重の無駄も大きく国際競争は不利だという判断から、共通課題では協力し合う「水平分業型」へと国内の自動車産業は徐々に変化つつあるという。
小野測器は、ジェットエンジンの回転数を計測する回転計から始まり、食品や医療検査などさまざまな分野で研究開発のサポートおよび測定技術を提供してきたほか、自動車業界についてもホンダのエンジンに関する技術面でのサポートをはじめとする自動車性能測定を中心に価値を提供し続けてきたとする。
そして先般、日本の自動車産業の水平分業型に向けたビジネスモデルの変革に貢献するべく、同社が掲げる「はかる・わかる・つながる体験価値の提供」の取り組みの一環として、自社の強みである音響・振動の計測、解析技術を最大限活用したベンチマーキングレポート販売事業を行うことを決定したとしている。
具体的には、騒音・振動に対するNV性能を評価可能な同社の横浜テクニカルセンター内にある音響棟「Acoustics Lab.」や、動力性能を包括的に評価できる宇都宮テクニカル&プロダクトセンター内にある自動車実験棟「Automotive Testing Lab.」を活用してデータを取得するほか、JARI(日本自動車研究所)の城里テストコースを活用する形で走行試験も実施、詳細なデータを取得しレポートを作成するとしており、自動車メーカー各社が必要とするだけの情報が詰まった充実した内容になっていると同社では説明している。
こうした取り組みにより、小野測器が国内OEM(完成車メーカー)と国内サプライヤー(部品メーカー)の間に入ることで、完成車メーカーは従来ベンチマーキングに割いていた高度な設備や優秀な技術者を、自社の製品開発に集中させることができるようになることが期待されるほか、部品メーカー各社にとっても、これまでの階層的な産業構造に伴う完成車メーカーとの情報共有の少なさから生じる、技術的な難しさやコスト面の問題、車体への部品搭載時の効果を示しにくいという問題を解決しやすくなり、競争力のある製品を開発・提案することにつなげることができるようになるという。
なお、同社はベンチマーキングレポートのラインアップと して中国のEVメーカーBYDのミドルサイズSUV「元PLUS(日本名:ATTO3)」に関するものの提供を開始しているほか、同じくBYDのハイエンドセダン「海豹(SEAL)」のデータ計測も開始済みで、2023年中には販売を開始する予定であるとしている。また、2024年以降も年3~4台のペースでデータのライブラリー化を行っていく予定と今後の方針を示している。