東京電力ホールディングスと中部電力が折半出資する火力発電大手のJERA(ジェラ)は10月10日、千葉県市原市にある姉崎火力発電所において、生成AI(人工知能)やメタバースを活用して運用を効率化する国内初となる「デジタル発電所」の取り組みをメディア向けに公開した。運用の効率化を図るだけでなく、現場力の高度化につなげていく考えだ。
JERAが実現するDDPでは、発電設備のリアルタイムデータや、暗黙知になりやすい熟練者のノウハウといった情報をすべてクラウド上に集めて共有し、データによってつながった発電所の一体運用とリアルタイムな意思決定を実現している。発電所で働く所員は、これまで多くの時間を費やしていたデータの収集・分析業務ではなく、データの活用業務に注力することが可能になった。
DDPで導入されているアプリケーションは、発電所の現場に精通したエンジニアによって独自に設計・開発されている。アプリケーションは約20種類開発されており、情報の収集から分析、対応の決定から実行、評価までをAI技術などを活用して実現するエンドツーエンドのパッケージとして展開されている。
そしてJERAは9月11日に米マイクロソフトとの提携を発表した。マイクロソフトの生成AIやメタバースといった最新技術を同社のアプリケーションに組み込んだ。
例えば、メタバース上で遠隔監視している発電所を世界地図上に可視化してサポートの要否をすぐに確認したり、発電所のデジタルツインモデルを映し出すことで設備の運転状況やオペレーションを直感的に把握したりできるようになった。メタバース上では常に言語が翻訳されるため、国内外の発電所問わず問題なくやり取りができる。
またメタバース上には、JERAが長年蓄積してきたデータやノウハウを学習させた生成AI「エンタープライズ ナレッジ アドバイザー(EKA)」が常時使用でき、日本語で「ChatGPT」のように自然言語で質問すると、膨大な資料に基づいた回答を得ることができる。
「ウクライナやイスラエルなどに代表される世界情勢や、日本国内の少子高齢化、電力の全面自由化、脱炭素への意識の高まりなど、エネルギー業界を取り巻く環境は大きく変わってきている。そのような変化に対応するために、我々の働き方も変えていかなければならない。時間や距離を越えてデータでつながり、これまで発電所に存在していた曖昧さをしっかりと形にしていかなければならない」と、JERA 副社長執行役員の渡部哲也氏はDDPで実現したいことを説明した。
まずは今月から姉崎火力発電所の新1~3号機から導入し2023年度内に本格運用を開始する。その後、国内外の発電所へ横展開し、他社への展開も視野に入れる。今後はAR(拡張現実)やMR(複合現実)といった最新技術も活用していく考えだ。同社は姉崎火力発電所の3基で40年間で約400億円の費用削減効果を見込んでいる。
「DPPは完成したわけではなく、これからどんどん進化していく。やりたいことはたくさんある。今後使えそうな新しい技術が現れれば、すぐに導入して展開していく」(渡部氏)