国立天文台(NAOJ)、茨城大学、東京電機大学(電大)、東京工業大学(東工大)の4者は10月6日、比較的若い原始星である「おうし座DG星」の周囲の原始惑星系円盤に対し、アルマ望遠鏡を用いた高解像度観測や多波長観測を行い、円盤の構造や惑星の材料となる塵の大きさ、量について詳細に調べた結果、円盤はのっぺりとしていて惑星の痕跡がないことから、惑星形成前夜の様子であると判明したことを共同で発表した。
また、さらに塵は外側で大きく成長していたり、内側では通常より塵の濃度が上昇していたりすることがわかったことも併せて発表された。
同成果は、NAOJの大橋聡史特任助教、茨城大 理工学研究科の百瀬宗武教授、電大 理工学部 理工学科 理学系 物理学コースの樋口あや助教、東工大 理学院 地球惑星科学系の奥住聡准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。
惑星は、原始星の周りを取り巻く原始惑星系円盤内で、ダスト(星間塵)や星間ガスが集まって形成されると考えられている。しかし、いつ・どこで・どのように惑星形成が始まるのか、その最初の一歩はまだわかっていない。
一方で惑星が円盤内で作られると、その重力によって円盤に土星の環のようなリング状の模様ができることが知られている。アルマ望遠鏡の観測でも多くの原始惑星系円盤でリング構造が実際に発見されており、惑星の存在が示唆されている。
惑星の形成過程を調べるためには、まだ惑星が存在していないことが確実な円盤を詳細に調べることが重要だ。しかし、そのような惑星の痕跡がない円盤を発見することの困難さや、その円盤を詳細に調べることの難しさから、惑星形成がどのように始まるのかはわかっていなかったのである。そこで研究チームは今回、原始星の中でも比較的若い天体であるおうし座DG星に着目し、同星を取り巻く原始惑星系円盤をアルマ望遠鏡で詳細に観測したという。
今回は、円盤内のダストが放つ波長1.3mmの電波強度の分布に対し、0.04秒角という非常に高い空間分解能での観測を行い、円盤の詳細な構造を明らかにしたとのこと。その結果、おうし座DG星周囲の円盤は、のっぺりとしていて比較的年を経た原始星の周囲の円盤で見られるリングのような模様がないことが確認された。これは、おうし座DG星の円盤にはまだ惑星が存在せず、惑星形成前夜の様子を捉えたと考えられるとする。
さらに研究チームは、波長1.3mmに加え0.87mmや3.1mmでも観測を行い、円盤の電波強度や偏光強度(電波の波の振動方向がどれだけそろっているかの度合い)を調査した。ダストの大きさや量の分布パターンに応じて、異なる波長の電波強度の比や、ダストにより散乱される電波の偏光強度は変化することがわかっている。つまり、観測結果をダストの大きさや量の分布がさまざまなパターンでの観測シミュレーションと比較し、よく一致するパターンを探すことにより、惑星の材料となる星間ダストがどの程度成長しているのか、その大きさや量の分布を推定することができるのである。そして調査の結果、ダストの大きさは円盤の内側よりも外側(約40天文単位以遠)の方が比較的大きい、すなわち惑星形成の過程が進んでいることがわかったとしている。
これまでの惑星形成論では、内側から惑星形成が始まると考えられてきた。しかし今回の結果はその予想と反しており、むしろ外側から惑星形成が始まる可能性が示された形だ。その一方で、内側でもダストの大きさは小さいが、ガスに対するダストの含有量は通常の星間空間よりも10倍程度も高いことが明らかにされた。さらに、これらのダストは円盤面によく沈殿しており、惑星を作る材料を溜め込んでいる段階であると考えられるという。研究チームは今後、このダストの溜め込みを引き金として、惑星形成を開始する可能性が考えられるとする。
今回の研究成果により、惑星の痕跡がない「のっぺりとした円盤」でダストの大きさや量が明らかになり、これまでの理論研究や、惑星形成の痕跡が見られる円盤の観測では予想ができなかった惑星形成現場の新たな側面が見えてきたとのこと。そして今回の成果は、惑星形成の初期条件を明らかにしたという点で非常に重要な成果と考えられるとしている。