韓国政府の崔相穆(チェ・サンモク)大統領経済首席秘書官が10月9日、「米国政府がSamsung ElectronicsならびにSK hynixが有する中国内の半導体工場を米輸出管理規定による『検証されたエンドユーザー(Validated End User:VEU)』に指定し、2社が今後、別途許可手続きや期間制限なしに米国製半導体製造装置を中国工場に搬入できるようにしたとの最終決定を伝えてきた」と明らかにしたことを多数の韓国メディアが10月10日付けで報じている。
VEUは、事前に米国政府の承認を受けた企業に、指定された品目の輸出を許可する包括的許可制度で、輸出規制の適用が事実上無期限猶予されることになる。従来のSamsungとSK hynixに対する米国政府による半導体技術・製造装置輸出統制の1年猶予措置は10月11日に終了する予定となっており、韓国政府はそれを踏まえて大統領室と産業通商資源部(日本の経済産業省に相当)を中心に猶予措置の追加・延長に向けて米輸出統制当局との交渉を進めていた。この交渉過程では2022年5月に米バイデン大統領の訪韓を契機に新設された米韓の国家安保室による経済安保対話チャンネルが効果を発揮したという。
現在、Samsungは中国西安にNANDの量産工場、蘇州に後工程工場を稼働させており、一方のSK hynixは無錫にDRAMの量産工場、重慶に後工程工場、そして大連にはIntelから買収したNAND量産工場をそれぞれ稼働している。例えばSamsungの西安工場は、同社のNAND全生産量の40%を生産しているとされるほか、SK hynixの無錫工場ではDRAM全生産量の40%、大連工場ではNAND全生産量の20%を生産しているとされる。
CHIPS法のガードレールは適用の見込み
今回の米国の通告により、2社は今後も中国でのメモリ生産の継続にめどが立ったことから、両社とも韓国政府への感謝の意を表明している。ただし、すべての不確実性が解消されたわけではない。というのも米国政府は、CHIPS法に基づく補助金支給に際してガードレール条項の適用を11月末から実施する予定で、この条項の最終案では、米国政府から補助金を受け取る企業は、中国内の生産施設を拡張しようとする場合、10年間で5%以下に抑えることが求められる(性能が劣る旧世代の汎用半導体を生産する場合は10%未満まで拡張可能)。つまり、韓国企業が、米国政府から補助金を受け取らなければ、米国企業から半導体製造装置を自由に購入し、中国工場に搬入できるが、CHIPS法に沿った補助金を受け取るとガードレール条項が適用され、中国工場への製造装置の搬入が制限されることになりそうである。この件に関して、韓国の尹政権は米国との対話を続けていくとしている。
なお、Samsung、SK hynixともに、米国内での半導体工場の整備に際してCHIPS法に基づく補助金申請を行っている模様である。
また、米中の技術競争がさらに激化すれば、米政府がさらなる規制強化に乗り出す可能性もないとは言えない。そのため、韓国の半導体業界関係者の中からは中国工場の大規模拡張や先端半導体生産などに対する不確実性とリスクは今後も続く可能性が高いとの見方が出ているようである。