情報通信研究機構(NICT)は10月5日、1本の光ファイバでは世界最大級の伝送容量となる毎秒22.9ペタビットの通信が可能であることを実証し、2020年にNICTが達成したそれまでの世界記録である毎秒10.66ペタビットを2倍以上更新したことを発表した。
同成果は、NICT ネットワーク研究所 フォトニックICT研究センター フォトニックネットワーク研究室の坂口淳主任研究員、同・古川英昭研究室長らを中心とした国際共同研究チームによるもの。詳細は、英国グラスゴーで10月1~5日まで開催された光ファイバ通信関係最大の国際会議の1つである「第49回欧州光通信国際会議」で口頭発表され、最優秀ホットトピック論文として採択された。
光ファイバの伝送容量を増やすため、光経路数の多い空間多重光ファイバや、波長ごとに異なるデータを載せて全体の伝送容量を増やす波長多重などの技術が開発されている。NICTがこれまで開発してきた技術には、マルチコア方式とマルチモード方式を組み合わせた100通り以上の光経路を有する空間多重化や、商用の波長帯(C、L)と商用化されていないS波長帯のほぼ全域を活用した合計20THzの周波数帯域を有するマルチバンド波長多重などがある。
空間多重とマルチバンド波長多重を併用する技術も、4コアファイバを中心に検討が進められている。しかし、38コア3モードなどのより多数の光経路を有する光ファイバにおいては、伝搬に伴い各コアやモード間で生じる信号同士の干渉を分離するためのMIMO(Multi-Input-Multi-Output)受信機をマルチバンド伝送に対応させる必要があったという。
今回の実験で使用された波長数は、S帯で293波、C帯とL帯で457波の合計750波で、18.8THzの周波数帯域が使用された。信号の変調には、情報量が多い偏波多重256QAM方式が使用された。ほぼ周波数帯域の等しい4コアファイバでの実験と比べ、光経路の数が28.5倍に拡大された。これにより、コアごとに毎秒約0.3~0.7ペタビット、全38コアの合計で毎秒22.9ペタビットの伝送容量が達成されたという。これは、現在の商用光通信システムにおける伝送容量の約1000倍に相当し、3年前にNICTが達成した自己記録毎秒10.66ペタビットを2倍以上更新することとなった。
今回開発された光伝送システムの概略は以下の通り。
- S、C、L波長帯で750波長の光を生成し、測定波長の光に偏波多重256QAM変調を与える
- 各波長帯用の光増幅器を用いて送信信号を増幅する
- 測定コアとその周辺コアに対し選択的に光信号を入力するため、光経路スイッチにより出力経路を切り替える
- 38個の3モード多重器で、114本の従来型光ファイバ入力を38本の3モード光ファイバ出力に変換する
- 38本の3モード光ファイバ入力を、38コア多重器により38コア3モード光ファイバ出力に変換する
- 13kmの38コア3モード光ファイバの測定コアとその周辺コアを光信号が伝搬する
- 38コア3モード光ファイバ入力を、38コア分離器により38本の3モード光ファイバ出力に変換する
- 38個の3モード分離器で、38本の3モード光ファイバ入力を114本の従来型光ファイバ出力に変換する
- 測定コアを伝搬した3モード分の信号を、光経路スイッチによって選択する
- 波長多重された3モード分の受信信号を、各波長帯用の光増幅器を用いて増幅し、波長可変フィルタによって波長多重分離し、3モード同時にコヒーレント受信する
- 電気信号に変換され、保存された受信データにオフラインでMIMO信号処理が行われ、送信信号を復調し、信号品質を評価してデータレートを求める
現在、4コアファイバの実用化が推進されているが、通信量が1000倍になるといわれる将来に向けては、光通信インフラのさらなる高度化が求められており、超大容量の光ファイバを実用化していく必要があるという。今回の研究は、将来の超大容量な情報通信ネットワークの実現に向けた、マルチコア・マルチモード方式による空間多重技術とマルチバンド波長多重技術の併用の初実証と位置付けられるとしている。