東京大学(東大)は10月5日、熱に強い超薄型プラスチックを基板に用いて、超薄型としては高い変換効率である18.2%のペロブスカイト太陽電池と、同じく高い変換効率を示す15.2cd/Aの超薄型ペロブスカイトナノ粒子LEDを開発することに成功したと発表した。

また、開発された太陽電池とナノ粒子LEDを集積化した電源内蔵型光センサは太陽光・室内光どちらでも電力に変換し、同LEDを光らせることに成功したことに加え、同LEDを用いて光脈波計測を行った結果、98.2%の選択性でノイズなく脈波信号を取ることに成功したこともあわせて発表された。

  • 今回開発されたペロブスカイト太陽電池とペロブスカイトナノ粒子LEDを組み合わせた、超薄型電源内蔵型光センサの構造図

    (左)今回開発されたペロブスカイト太陽電池とペロブスカイトナノ粒子LEDを組み合わせた、超薄型電源内蔵型光センサの構造図。(右)デバイスを肌に貼り付けた際の様子(出所:東大プレスリリースPDF)

同成果は、東大大学院 工学系研究科の横田知之准教授、同・染谷隆夫教授、スイス連邦工科大学 チューリッヒ校の甚野裕明ポスドク研究員(研究当時)らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、機能性材料に関する化学と物理学を扱う学際的な学術誌「Advanced Materials」に掲載された。

ウェアラブル機器やIoTの普及が進むに連れ、交換不要な電源を内蔵した、自律駆動可能なウェアラブルセンサの開発が望まれている。中でも、環境に存在する太陽光や室内光といった光エネルギーを電力に変換可能な、超薄型(5μm以下)の太陽電池は、デバイスの面積に比例した大電力発電が可能であるため、軽量なウェアラブル電源として期待されている。

これまで、有機半導体を使った有機太陽電池による電源内蔵型ウェアラブルセンサや、音響発電による電源内蔵型ウェアラブルセンサなどが提案されてきた。その中で近年、超薄型で高効率な光電デバイスとして、超薄型プラスチック基板とペロブスカイト結晶を用いた超薄型のペロブスカイト光電デバイスに注目が集まってるという。

ペロブスカイト光電デバイスは、高い光電変換効率を持つペロブスカイト結晶を活性層へ用いることで、高効率の太陽電池や半値幅の狭い鮮やかな発光を示す発光ダイオード(LED)を実現することが可能だ。しかし、これまで超薄型プラスチック基板を用いた高効率のペロブスカイト光電デバイスの実現は、超薄型デバイスへ用いられるポリエチレンテレフラレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)といったプラスチック基板が、高温の熱プロセスに弱いため困難であるとされてきた。そのため、高効率を示すペロブスカイト光電デバイス構造を超薄型基板上へ導入することができなかったとし、研究チームは今回、「パリレン/SU-8」の積層プラスチック構造を用いた熱に強い超薄型プラスチックを基板に用いることにしたという。

その結果、超薄型ペロブスカイト太陽電池を開発することに成功。同太陽電池は、酸化スズを下部電子注入層に持つn-i-p構造で、ガラス基板上デバイスと遜色ない効率を示し、超薄型太陽電池として高効率である18.2%の変換効率が実現された。

  • 超薄型ペロブスカイト太陽電池の構造図

    (左)超薄型ペロブスカイト太陽電池の構造図。(右)太陽電池の特性。超薄型ペロブスカイト太陽電池として世界最高効率の18.2%が達成された(出所:東大プレスリリースPDF)

さらに今回の研究では、15.2cd/Aという高い変換効率を示す超薄型ペロブスカイトナノ粒子LEDも実現され、従来の超薄型有機LEDにおいて課題だった基板由来の発光色歪みを抑えることも可能だという。従来の幅広い発光スペクトルを持つ超薄型有機LEDにおいては、基板由来の周期的な発光スペクトルの歪みが見られたが、今回開発されたLEDは、半値幅が狭く鋭い発光スペクトルを持つため、基板由来の周期的な発光色歪みが抑えられることが確認されたとした。

  • 超薄型ペロブスカイトナノ粒子LED発光スペクトルのシミュレーション結果

    超薄型ペロブスカイトナノ粒子LED発光スペクトルのシミュレーション結果。(左)超薄型有機LEDの解析結果では周期的な発光スペクトル歪みが見られる。(右)その一方で、超薄型ペロブスカイトナノ粒子LEDでは、鋭い発光スペクトルにより周期的な発光スペクトル歪みを抑えることができている(出所:東大プレスリリースPDF)

今回開発されたペロブスカイト光電デバイスは、太陽光下、室内光下、どのような環境であっても高効率で発電を行うことが可能で、今回の超薄型太陽電池と超薄型LEDを集積化した電源内蔵型光センサは、太陽光・室内光それぞれの光を電力に変換し、同ナノ粒子LEDを光らせることに成功している。さらに、同ナノ粒子LEDを用いて血流の光脈波計測が行われた結果、98.2%の選択性でノイズなく脈波信号を取ることに成功したとする。今後、ペロブスカイト光電デバイスを用いた、室内光で持続的に駆動可能な超薄型ウェアラブル機器の開発が期待されるとした。

  • 超薄型電源内蔵型光センサの駆動の様子

    超薄型電源内蔵型光センサの駆動の様子。(左)太陽シミュレータ光での発光の様子。(右)室内光での発光の様子(出所:東大プレスリリースPDF)