電通デジタルは10月5日、企業のマーケティング活動を統合的に支援する新たなAIサービスブランド「∞AI」として4つのサービスの提供をスタートしたことに合わせて、AI事業戦略発表会を開催した。

発表会には、電通デジタル 代表取締役執行役員である瀧本恒氏と、同社 執行役員 データ&AI部門長の山本覚氏が登壇し、同社のAIに関する事業戦略と新AIソリューションについて紹介した。

本稿では、その一部始終を紹介する。

  • ,電通デジタル 執行役員データ&AI部門長の山本覚氏、代表取締役執行役員の瀧本恒氏

    左から電通デジタル 執行役員データ&AI部門長の山本覚氏、代表取締役執行役員の瀧本恒氏

電通デジタルの4つの事業領域

瀧本氏は、最初に「電通デジタルの4つの事業領域のポジション」について説明した。

同社の事業領域は、DXコンサルティングを行う「トランスフォーメーション領域」、企業のテクノロジー活用を支援する「テクノロジートランスフォーメーション領域」、デジタル広告やマーケティングを手がける「メディア&コミュニケーション領域」、クリエイティブプランニング・制作などを行う「クリエイティブ領域」の4つで構成されている。

  • ,電通デジタルの4つの事業領域

    電通デジタルの4つの事業領域

「弊社では、これら4つの事業領域がシナジーを生むことで、クライアントの事業成長を支え、そしてパートナーとなって伴走していくとことを目標に掲げています。その中で弊社は、総合デジタル化と位置付け、クライアントの変革、および自社のトランスフォーメーションも推進していきたいと考えております」(瀧本氏)

  • ,電通デジタルの事業領域を説明する瀧本氏

    電通デジタルの事業領域を説明する瀧本氏

この4つの領域の中でも、特に電通デジタルが自社の強みとして挙げたのが、同社のみならず、電通グループ全体で培ってきた「クリエイティブ領域」だ。

この「クリエイティビティ」という強みを最大限生かすためには、すべての領域においてクリエイティビティが必要であるという考えのもと、2024年1月から全社横断のAI組織を新設することを発表した。

この組織を元に、一気に全社的にAIを加速し、加えて2030年には社員数を5000人の規模にしたい構えだという。

生成AI登場によって変わるマーケティングの形

続いて登壇した山本氏は、生成AIによる世の中の変化を紹介した。初めに「生成AIの市場規模」が説明された。

「今後10年間、生成AI全体の市場規模は、平均して27%程度ずつ成長していく見込みとなっています。その成長の結果として、2032年には市場規模が17兆円ほど伸びるという予測もされています。特に、その中の約20%は、マーケティング領域への活用になるのではないかという予測もあり、生成AIの登場によりマーケティングに大きな変革が起きているということが言えるのではないかと思っています」(山本氏)

  • ,生成AIの市場規模の変化を語る山本氏

    生成AIの市場規模の変化を語る山本氏

具体的に、生成AIの登場によって起こるマーケティングの変化については「会話」や「相談」といった新しい購買までのステップが生まれることが大きいという。

「認知といった面で言うと、『続きはWebへ』というようなCMと同じような形で、『続きはチャットへ』といった誘導が進んでくるのではないかと考えています。企業側と顧客の対話が生まれることにより、製品の内容などを詳しく説明できるようになるので、今までリーチできなかったような潜在層へのアプローチや既存顧客対応の向上などが見込めるようになるのではないかと思います」(山本氏)

また、さらにステップが進んで、営業活動や会員向けサイトやアプリ、コールセンター業務などにも生成AIを活用できるようになると、「顧客応対のパーソナライズ化」が実現でき、リピーターの増加にもつながるそうだ。

  • ,生成AIによって変化するマーケティングのイメージ

    生成AIによって変化するマーケティングのイメージ

さらに顧客接点だけではなく、今までよりも豊かなデータが蓄積できることにも大きなメリットが発生するという。

「商品購入のフェーズに『対話』が入ることにより、従来よりも具体的な生の声をデータとして蓄積できるようになります。そしてそれを受けて、マーケターやビジネスディベロッパーが新しいビジネスを創出し、新しい顧客接点を作るというように、AI利活用のサイクルが回っているということが、今後は重要になってくるのではないでしょうか」(山本氏)

新たなAIブランド「∞AI」

続けて山本氏は、前述したような潮流を受け、電通デジタルが「∞AI(ムゲンエーアイ)」というAIブランドを提供開始することを発表した。

同ブランドのサービスは、生活者が商品・ブランドを発見し、理解し、ファンになることをサポートする3つのAIアプリケーション「∞AI Ads」「∞AI Chat」「∞AI Contents」と、それらの基盤となるプラットフォーム「∞AI Marketing Hub」で構成されている。

  • ,「∞AI」シリーズの全体像

    「∞AI」シリーズの全体像

∞AI Adsは、デジタル広告クリエイティブ制作の4つのプロセスである「訴求軸発見」「クリエイティブ生成」「効果予測」「改善サジェスト」で生成AIを活用し、最適化および最大化を行うアプリケーションだ。

同社が2022年12月に発表した「∞AI」から改名およびサービスのアップデートを行い、本格提供を開始したものとなる。今後は「バナーの自動生成」や「動画の効果予測」といった新機能の搭載も検討されているそうだ。

∞AI Chatは、企業の独自データを用いて、ユーザーにパーソナライズした対話型AI開発を支援するアプリケーションだ。ウェブサイトやLINEなどのコミュニケーションツールとの接続ができ、顧客や従業員とのコミュニケーションの質と効率の向上を支援する。

また、∞AI Contentsは、電通デジタルがこれまで培ってきたクリエイティビティを活かし、AI活用によるバーチャルヒューマンやオウンドメディア構築など、ユーザーエンゲージメントを高めるサービス・プロダクトを提供するサービス。同社の500人を超えるクリエイターがプランニングならびに実装支援を行うという。

そして、∞AI Marketing Hubは、生成AIのパフォーマンスをさらに高めるためのプラットフォームとして提供される。

多様なデータを一元管理できる「データハブ」、データハブ内のデータを処理し目的に応じた最適なAIの選択・統合・制御を行う「AIハブ」を備え、この2つの機能をシームレスに連携させることで、企業の広範なニーズに対応しながら最良のマーケティングパフォーマンスを生み出すことができるとのことだ。

さらに、企業のAI活用ビジネスをスムーズに進行させるため、各種AIサービスの導入・運用に伴う、コンサルティング、システムインテグレーション、運用サポート、クリエイティブプランニングなどの付帯サービスも実施する方針としている。

発表会の最後に、山本氏は以下のように今後の展望を述べた。

「今日の発表を聞いた方の中には、『AIが自分の仕事を奪ってしまうのではないか』という心配を抱いた方もいるかもしれません。しかし、あらゆることをロジカルに考えて拒否感を示すのではなく、『AIがあったらもっと人間はワクワクすることができる』というような想いを持つことが、世界の進化の一歩につながるのではないかと思います」(山本氏)