2023年10月4日から6日まで幕張メッセで開催されている「第14回 高機能素材Week」内の「第3回 サステナブル マテリアル展」で、ダイセルは、高生分解性リサイクル樹脂や木材由来のバイオマスフィルムなどの展示を通して、循環型社会の実現に向けた取り組みを紹介している。
3Dプリント可能な高生分解性リサイクル樹脂「CAFBLO」
木材由来の天然高分子であるセルロースを原料とした人工プラスチック「セルロイド」の開発を起源とするダイセルは、1938年から酢酸セルロースの製造に取り組んでいる。
そして近年、木材由来のセルロースと食酢の主成分である酢酸からなり“環境にやさしい”特性をもつ酢酸セルロースについて、同社は海洋での生分解性を飛躍的に向上させることに成功。課題が表面化している海洋プラスチック問題への解決策として、高生分解性酢酸セルロースを「CAFBLO(Cellulose Acetate for Blue Ocean)」として提案している。
またこれまで同ブランドでは、木材チップから分解した酢酸セルロース粉末をCAFBLOとして取り扱い、それを樹脂ペレットに変える作業は完全子会社のダイセルミライズで行っていたとのこと。しかし2023年8月、社内でよりスムーズにペレットまでの生産を行うため、樹脂事業をダイセル内へと移管し、CAFBLOを酢酸セルロース樹脂としてリブランドしたという。
同樹脂の特徴として、先述した通り海洋生分解性の高さがある。一般的なプラスチックが分解に数十年~数百年を要するのに対し、CAFBLOは特に海水中での生分解速度を2倍近くまで向上。環境負荷を低減した樹脂素材として適用が期待される。またリサイクル性能も高く、再生を重ねるごとに変色はするものの、物性が衰えにくい点も重要だとする。
さらにものづくりの面では、FDM(熱溶解積層)方式による3Dプリントにも対応。透明性があり意匠性の高い構造にも適用可能な上、成型後のネジ打ちにも可能であるため、大型家具なども造形できるとのことだ。
ダイセルのCAFBLO事業担当者は、造形の多様さに加えて重厚感を再現できる重みや質感に特徴があるとしており、「木材由来ながら無機物的な質感までも表現できるため、高級感が求められる製品においても適用できるのではないか」と見通しを語る。
野菜もフィルムに? 開発を進める木材超穏和溶解技術とは
木材由来のセルロースを利用してきたダイセルは、京都大学との共同研究により、その木材の溶解技術についても開発を進めている。この共同研究で目指しているのは、室温から風呂温度程度の超穏和条件下で実行可能な溶解技術の実現だという。
従来は木材をセルロースにするために、高温での処理や薬品など環境負荷の大きなプロセスなどを必要としていた。しかし同社の研究チームは、超穏和な条件下で有機酸などに可溶化し、フィルムなどのバイオマス製品の創生に繋げていくことを目指している。
ダイセルの担当者は、「木を全部溶かして使えるようになれば、木材生産者にとってこれまで商品にならなかった枝や曲がり材なども、素材としての価値が生まれる」と話し、それにより今まで得られていなかった利益が生産者のもとに届き、持続可能な生産体制の構築につながるとする。
こうした取り組みを同社は「バイオマスバリューチェーン構想」として掲げており、山林保有者などの1次産業従事者が得る利益を拡大することで、雇用の創出をはじめとする地域の活性化に寄与していきたいとのこと。「我々でたくさんの利益を独占していくという発想はない」ともしており、意志のある地元企業などに対しては、ノウハウなどの共有を惜しまないという。
今回のブースでは、溶解技術を活用して作られたバイオマスフィルムなどを展示。木材に限らず、ジャガイモやバナナなどといった野菜・果物の皮を溶かして作ったフィルムも展示されている。
また前出の担当者によると、同フィルムの適用に向けて家具メーカー「カリモク家具」との共創を開始しているとのこと。家具の製造において化学薬品を必要とする塗装・接着の2工程について、バイオマスフィルムは素材によってさまざまな質感を表現できるのに加え、熱圧処理によって接着することが可能なため、化学薬品の使用が不要になるとする。
両社の共創においては、デザインの均一性や品質の面で未だ検討を続けている点はあるというものの、実用化に向けて着々と歩みを進めているようだ。
担当者はこの超穏和溶解技術について、「社会変革のための取り組みだと捉えている」とし、「いろいろな地域と連携しながら活用範囲を広げ、まさに社会が変化している中で重要性や価値を発揮する技術にしていきたい」と語った。