広島大学は10月3日、変形性膝関節症患者の歩行中に生じる、半月板の動き方から3つのパターンに分類し、歩行の癖で生じる力、さらには半月板の関節外方向への逸脱の引き金となる「半月板後方付着部損傷」との関連性を解明したことを発表した。
同成果は、広島大大学院 医系科学研究科 生体運動・動作解析学の石井陽介助教らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
半月板はCのような形をした軟骨の一種で、膝関節内に正しく位置していることで、衝撃を吸収するという役割を全うすることが可能だ(半月板にはもう1つ、膝関節の安定化という役割もある)。しかし半月板が関節外方向へ逸脱していくと、衝撃吸収機能が低下し、変形性膝関節症の進行スピードが加速してしまう。この変形性膝関節症者の半月板逸脱は、歩行中の関節負荷によって増悪することが明らかにされているが、半月板逸脱を悪化させる原因を詳細に分析することは困難だったという。
原因を分析することが困難な背景には、個人ごとに歩き方の癖が異なることが影響している。癖の違いから関節にかかる負荷も個人ごとに異なるため、それが複雑さを招き、詳細な半月板逸脱を悪化させる原因を解明できていなかったとのこと。そしてこれまでは、“膝の痛みは年齢のせい”として片づけられてしまうような一面があった。しかし現代は“人生100年”といわれる時代であり、研究チームは、早期段階から原因を特定して個別に適切な治療・予防につなげることが、健康寿命の延伸にとって重要だとする。
今回の研究では、変形性膝関節症者55名と健常高齢者10名を対象とし、3次元動作解析システムと超音波計測器を用いて、快適歩行中の関節負荷と内側半月板の動きを同時に測定したという。そして健常者の半月板の動き方と比較し、足底の地面接地や踏み込み時に発生する膝の内側に生じる力や、膝を曲げる力の観点から、変形性膝関節症者を3パターンに分類したとのことだ。
分類の結果、Type1は全体の27%を占め、半月板後方付着部損傷発生率は33%だった。Type2は44%と最も割合が多いが、発生率は13%と低く、Type3は29%程度であるものの、発生率は54%と最も高かった。研究チームによると、Type2は健常者の半月板の動きに近い一方で、Type1と3の半月板の動きが健常者とは類似しておらず、そのことが発生率の上昇を示唆するとしている。
またこのことから、足底の地面接地や踏み込み時に発生する膝の内側に生じる力、膝を曲げる力が、変形性膝関節症者の半月板逸脱と関連し、歩行中に半月板の逸脱を悪化させていることが突き止められた。
研究チームは、今回の研究成果を活用し、半月板の動き方から早期段階の逸脱を予測することで、将来の変形性膝関節症の発症を抑制させることが期待されるとする。また歩行中の半月板逸脱を増悪させる力を解明したことで、その力を効率的に減少させる装具や歩き方など、歩く癖の修正を通して変形性膝関節症者の新規治療の確立が期待されるという。特にこれらの治療方法は、変形性膝関節症者の半月板の動き方ごとにオーダーメイド化が可能となるとのことだ。
加えて、現在膝に痛みなどの症状がなくても、半月板が逸脱しない適切な歩き方や歩行量など、日常生活の中で実践できる、具体的な予防方法を提案できる可能性があるとしている。