大阪公立大学(大阪公大)は10月3日、AIを用いた、粉体の混ざり具合を予測する新たなシミュレーション手法「RNNSR」を開発し、従来法と変わらない精度で、計算速度を約350倍にまで向上させることに成功したと発表した。

同成果は、大阪公大大学院 工学研究科の岸田尚樹大学院生(JSPS特別研究員DC1)、同・仲村英也准教授、同・大崎修司准教授、同・綿野哲教授らの研究チームによるもの。詳細は、触媒作用や環境科学などの5つの観点から化学工学に焦点を当てた学術誌「Chemical Engineering Journal」に掲載された。

2種類以上の粉(粉体)をかき混ぜて均質化する粉体混合は、医薬品、食品、電池、電子部品、セラミックスなど、多種多様な分野で用いられており、ものづくりを支える重要な技術の1つだ。しかし、どのような条件で混ぜれば目的とする均質性が得られるのかを予見することは難しく、今でも試行錯誤を重ねたり、技術者の経験に頼ったりすることが多い点が課題となっている。

この課題を解決するために開発されてきたのが、粉体の混合を精度良く予測できるシミュレーション手法の「離散要素法」(DEM)だ。DEMは粉体を構成する全粒子について、100万分の1秒という極めて短い時間幅の運動挙動を1つ1つ計算した後、その値を用いて粉体全体の動きを計算し直し、再び短時間先の粒子ごとの運動挙動を計算するという手順を何度も繰り返すことで、粉体混合を予測する手法だ。しかし、当然ながら計算に時間がかかるという大きな課題があり、実際の製造業で求められる長時間の粉体混合を予測することはできなかった。そこで研究チームは今回、長い時間幅でも精度良く粒子運動を計算できる新しい手法を開発することにしたという。

今回新たに開発された手法は、「Recurrent Neural Network with Stochastically calculated Random motion」を略し、「RNNSR」と命名された。RNNSRは、DEMで計算した極めて短時間の粒子運動パターンを学習させて構築するAIモデルだ。DEMの数万倍長い時間幅での粒子運動挙動を予測することが可能だという。なお、同手法にはRecurrent Neural Network(RNN、回帰型(再帰型)ニューラルネットワーク)という言葉が含まれるが、これは深層学習の一種で、時間変化するデータの未来の結果を予測することに用いられている。

  • 今回開発された粉体混合の予測モデルRNNSRの概念図

    今回開発された粉体混合の予測モデルRNNSRの概念図 (出所:大阪公大プレスリリースPDF)

RNNSRでは、粉体特有の運動挙動を精度良く学習・予測するため、巨視的な粉体の動きをRNNで予測し、微視的な粒子のランダム運動を「確率分布モデル」(統計的関数から求めた確率に従って、現象を表現するモデル)で予測するという仕組みが特徴だ。RNNSRを用いて、DEMと変わらない精度で粉体混合を予測することに成功し、なおかつDEMと比較して約350倍の計算速度を実証することができたとした。

  • 従来法のDEMとRNNSRで予測された粉体混合状態と混合度の時間変化

    従来法のDEMとRNNSRで予測された粉体混合状態(a)と、混合度(混合均質性の指標)の時間変化(b)。RNNSRの予測結果はDEMとほぼ同じであり、計算速度では約350倍となることが実証された (出所:大阪公大プレスリリースPDF)

近年の製造業では、DXを駆使したものづくりへの転換が急速に進行している。今回の成果は、粉体を扱うものづくりでのDX推進に大きく貢献することが考えられるという。

また研究チームは今後、粉体のより複雑な混合挙動も予測できるようにすること、さらに、実在粉体の特徴である不均質性(粉体を構成する粒子1つ1つの物性のバラツキ)を扱うことができる手法にまで展開することを考えているとした。