米中対立がエスカレートする中、米バイデン政権が先端半導体分野で中国に輸出規制を強化してから今月でちょうど1年となった。先端半導体分野の紛争激化によって明らかになったのは、米国の焦りと中国の対日不満の高まりだろう。

昨年秋以降、米中による半導体覇権競争で最大の分岐点となったのが、米国が同盟国や友好国に対中規制に同調するよう呼び掛けたことだ。独自で輸出規制を強化した米国だが、今年1月、バイデン大統領は岸田総理が訪米した際、先端半導体の製造装置で世界の先端を走る日本に対し、同輸出規制に加わるよう要請した。これは事実上の圧力にもなったが、これは米国単独で輸出規制しても効果が期待できず、他国の協力がないと目的が達成されないとの危機感が米国にあったからだ。

米国は、軍の近代化を押し進める中国に対して警戒感を強めており、先端半導体が中国によって軍事転用されることを防止するため、昨年秋に輸出規制を強化したのだ。しかし、製造装置なども中国が入手できないようにしなければ、中国軍のハイテク化、軍事増強を抑えられない恐れがあるので、日本に対して同調を呼び掛けた。そして、バイデン政権は同様に先端半導体の製造装置の生産に強いオランダに対しても協力を呼び掛けた。

近年、米中がテクノロジー分野で激しく争う中、米国が第3国を味方につけて集団的に輸出規制を掛けることに、中国は不満を強めている。中国の本音としては、米国との争いがエスカレートすることは避けられないが、第3国との貿易関係が不安定になることは望んでいない。むしろ、米国と争うためにも第3国との関係は中国にとって死活的に重要になる。そのような中、米国がグループになって対中圧力を強化し、しかも軍事的近代化を進めるために必要となる先端半導体で輸出規制を仕掛けてくることに、中国は今日打開策を見出せないでいる。

そして、それによって中国の対日不満も強まる一方だ。1月にバイデン政権から要請されたことを受け、日本は3月に足並みを揃えることを決定し、7月下旬、先端半導体の製造装置など23品目で対中輸出規制を開始した。これは中国からすれば、日本が貿易相手国から貿易対立国に立場が移ったことを意味し、日中貿易に暗い影を落とす出来事になった。

そして、それはすぐに実行に移された。中国は半導体の材料となる希少金属ガリウムとゲルマニウムの輸出規制を発表し、それが8月から実行に移された。それによって、8月には日本向けのガリウムとゲルマニウム関連の製品の輸出許可が一件も下りなかったという。また、福島第一原発の処理水放出によって、中国は日本産水産物の輸入を全面的に停止した。日本産水産物の多くが中国に輸出され、売り上げの半分以上を対中輸出に依存してきた企業も多く、これは経済的に極めて重い措置と言えよう。これについて米国は経済的威圧だと中国を非難したが、それだけ中国の日本に対する不満が強まっている何よりの証拠だ。

この1年、先端半導体という一品目によって米中対立はさらに激しくなり、それだけでなく日本やオランダもそれに巻き込まれ、日本と中国の経済、貿易関係が冷え込むという事態に発展している。そして、その影響は非製造業の水産業にも飛び火し、今後もどの業界に影響が出るのか分からないという状況をもたらしている。