企業経営においては、常にパラダイムシフトに対応することが重要だ。しかしpeople first 代表取締役で、元LIXIL グループ執行役副社長の八木洋介氏は、標準化や管理思考といった昭和の高度経済成長期と同じ考えから抜け出せない企業が多いために、「日本経済が活性化しないのだ」と言う。そこで、今の時代に求められるものとして同氏が提唱するのが、組織とその中にいる個人の両方が活かされる「両利き」の働き方だ。9月5日~8日に開催された「TECH+ EXPO 2023 Sep. for HYBRID WORK 場所と時間とつながりの最適解」に同氏が登壇。個人のWell-beingと組織のWell-doingがつながることで実現されるという両利きの内容や、そのために必要になる考え方について解説した。
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多様な「個」を組織で活かす時代になった
八木氏はまず、日本の経済が活性化しないのは、組織の在り方に問題があるからだと述べた。日本は、世界的に見ると熱意のある社員の割合が圧倒的に少なく、女性の活用も世界最下位に近いというデータを示した同氏は、「これでは生産性が高くなるはずがない」と言う。
こうなった理由は、経路依存性にある。昭和30年代にはアメリカをモデルとし、大量生産、同質性、標準化、規則、管理、バルク型人事といった方法で成長を続けていたが、多様性や差別化の時代になってもそのスタイルを変えられていない。
「こんなことをやっていたらコモディティ、レッドオーシャンになってしまいます。必要なのはイノベーション、ブルーオーシャンなのです」(八木氏)
そこで今、求められているのは、昭和時代の標準化や管理ではなく、イノベーションや差別化であり、多様な「個」を活かすことだ。インターネットによって世界は複雑化し、多くの情報が溢れている。1人のリーダーが全てのことを理解できる時代ではない。だからこそリーダーが全てを決めるのではなく、現場に任せることも必要になってくる。
「多様な個を組織で活かす時代になったのです」(八木氏)
個と組織の両方を活かす両利きの人事
個を活かして組織で勝つためには、両利きの人事が必要だと八木氏は語る。ここで言う両利きとは、いわゆる「両利きの経営」とは異なり、個人と組織の両方を活かすことだ。ただ、個人と組織では重視するものが異なる場合が多い。例えば、個人は成長を目指し、多様性や自分らしさを大事にするし、個人の成果のためにはモチベーションが重要になる。しかし組織では個の成長はもとより企業価値の向上が大切であり、バラバラの個ではなく一丸となってまとまること、そして何より結果が重要になる。つまり、個はWell-beingを追求するが、組織はWell-doingを追求する。そしてこの両方がサイクルとしてつながったものが、八木氏の言う両利きなのだ。
では両利きを実現するための施策にはどんなものがあるのか。まずは人への投資だ。人を活かすことが最も重要である。そして多様な個を活かすために、パーパス経営でビジョンやカルチャーといった共通のプラットフォームをつくる。コラボレーションも重要だが、単純なコラボレーションではなく、複数のチームで1つのチームを組織するような“Team of Teams”でなければならない。個人と組織の目的が一致するようにすること、つまり在りたい姿となりたい姿を一致させること、すなわちエンゲージメントだ。そして何より大事なのは適所適材で、大切なポジションに最も相応しい人材を配置することだと八木氏は述べた。