龍谷大学は10月2日、滋賀県の土壌から新種の油脂酵母2種を発見し、そのうちの1種は油を蓄積する性質にちなみ「Hannaella oleicumulans」、もう1種は東近江市から分離したことにちなみ「Hannaella higashiohmiensis」と命名したことを発表した。

同成果は、京都大学(京大) 産官学連携本部の谷村あゆみ特定助教、京大大学院 農学研究科の小川順教授、龍谷大 農学部の島純教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、国際微生物学会連合の細菌学および応用微生物に関する全般を扱う学術誌「International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology」に掲載された。

  • 今回、琵琶湖周辺で新種の油脂酵母2種が発見された

    今回、琵琶湖周辺で新種の油脂酵母2種が発見された(出所:龍谷大Webサイト)

油脂は、食用、工業、燃料など、幅広い用途に利用されており、世界的にとても需要の多い物質であるほか、近年は新興国の成長などによりその需要がさらに増しており、油脂自給率が1割ほどと低い日本では、安定的な油脂原料の確保は重要な課題となっている。この課題に対し油脂原料である植物油の増産が考えられるが、日本では就農人口の減少などの問題から困難だという。

そうした中で研究が進められているのが、日本が古くから得意とする微生物を利用した油脂生産に関する技術だ。酵母の中には、糖や多糖を油脂に変換し菌体内に蓄積するグループが存在し、その活用が検討されており、乾燥菌体重量あたり20%以上の油脂を生産する酵母が油脂酵母と呼ばれている。

バイオマスを原料とした酵母による油脂生産は、石油価格の上昇や枯渇のリスクの低減、二酸化炭素の排出削減効果などの観点から、有望な技術として注目されている。現在、油脂酵母は約160種あると見積もられており、このうち、「Lipomyces starkeyi」、「Rhodotorula toruloides」、「Yarrowia lipolytica」などが油脂酵母としてよく知られている。

酵母は、自然界に幅広く存在しており、日本は緯度の差が大きいためさまざまな酵母が生息しているといわれている。ただし、まだ多くの種が未発見のままであるというのが専門家の認識だという。微生物資源の探索のためには、今までにない分離方法を用い、今まで探索されてこなかった地域から採取することが重要とされる。

滋賀県は、水圏、森林圏、耕地圏とあらゆるフィールドを有しており、南北の気温差が大きく、気候の変化に富む地域といえる。そのような土地には新規な酵母が生息している可能性が高いことが推察されることから研究チームは今回、滋賀県の土壌に着目し、県内のさまざまな場所から土壌を採取、酵母の生育に特化した培地を用いて分離を行うことにしたとする。

その結果、2種類のHannaella属に属する酵母を取得することに成功。DNA解析および生理性状試験の結果も、新種であることを支持するものだったとした。培養試験が行われ、それらはすべて油脂酵母であることも判明し、2種ともキシロースを取り込むことができるため、稲わらなどの植物系バイオマスの糖化液などを油脂生産の原料にできる可能性があるとした。1種は油を蓄積する性質にちなみHannaella oleicumulans、もう1種は東近江市から分離されたことにちなみHannaella higashiohmiensisと命名され、正式に承認された。

今回の研究により、滋賀県の独特な風土が独自の微生物生態圏を有していることが示唆されたとする。また、分離方法を工夫していくことで、さらに新しい酵母が採取できる可能性があるという。その一方で、気候と酵母の生態の関係はまだよくわかっていないことも多いとする。今後、自然界からの分離と解析をさらに進め、酵母の多様性を解明していくほか、油脂酵母の分離手法を検討し、油脂生産性の高い新規な菌株の取得を目指していきたいとしている。