アドビと立命館は9月29日、Society5.0時代における新たな価値創出を担う人材育成を目指し、その実現に必要な連携・協力を行うことで合意し、連携協定を締結した。

調印式には、アドビ 代表取締役社長のクレア・ダーレイ氏、同 執行役員 教育・DX人材開発事業本部 本部長の小池晴子氏、立命館 総長の仲谷善雄氏、同 常務理事(企画担当)の山下範久氏、同 総合企画室 副室長の三宅雅人氏らが登壇し、連携協定に至った経緯や今後の方針を語った。

加えて、調印式の後には立命館守山高校、立命館大学映像学部、立命館大学経営学部の学生19名が参加する模擬授業が行われ、学生たちはAdobe Expressを活用したワークショップを体験した。

本稿では、調印式と模擬授業の一部始終を紹介する。

  • ,調印式後に行われた模擬授業に参加した学生と登壇者たち

    調印式後に行われた模擬授業に参加した学生と登壇者たち

キーワードは「多様性」と「先進性」

今回の協定は、立命館が運営する2つの大学、各4つの高校、中学校、1つの小学校からなる学園すべてで、時代に即応したイノベーション・創発性人材の育成を目指すもの。学園すべての児童・生徒・学生に対しクリエイティブ人材育成およびデジタルリテラシー育成のためのカリキュラム開発と実現を図る方針となっている。

「立命館では、2020年に学園ビジョン『R2030』を設定し、その中で『新たな価値を創造する次世代研究大学』と『イノベーション・創発性人材を生み出す大学』を目指すべき姿として掲げています。この姿の実現のためには、社会で通用するデジタルスキルやAI活用のリテラシーを身につけ、実際の社会課題に取り組む機会の創出が必要だと考えていました。この機会創出のため、両者で協力して取り組みを進めていきます」(仲谷氏)

  • ,立命館の学園ビジョンを語る仲谷氏

    立命館の学園ビジョンを語る仲谷氏

仲谷氏曰く、立命館の学園全体には、小学校から大学院まで約5万人の生徒が在籍し、特に立命館大学には約70の国や地域から、アジア太平洋大学には100を超える国や地域から学生が集まっている。そのため、言語や年代、学問といったさまざまな面で「多様性」を持ち合わせた学校となっているという。

この多様性という部分は、今回の連携においてアドビ側から立命館が評価を受ける大きなポイントとなったそうだ。他方、立命館側からは「先進性」という面がアドビを連携先に選ぶ決め手となったという。

  • ,「多様性」×「先進性」のイメージ

    「多様性」×「先進性」のイメージ

「立命館としては、アドビさんの『先進性』に惹かれました。最先端のデジタルテクノロジー、そしてクリエイティブデジタルリテラシーを掲げる、アドビさんのこれまでの取り組みが、本学が目指す新しい高等教育の形というものに、大きく資するということで連携を進めてまいりました。このような立命館の多様性あふれる環境に、アドビさんが有する先進性と可能性を掛け合わせることで、学生、生徒、児童が失敗を恐れないチャレンジを繰り返し、世界に大きく飛躍することが可能になると考えております」(山下氏)

  • ,連携のキーワードである「多様性」と「先進性」について語る山下氏

    連携のキーワードである「多様性」と「先進性」について語る山下氏

日本の教育機関初「Adobe Creative Campus」の認定を目指す

立命館は、2024年度から社会課題解決と人材育成を目的とした教育プログラム「QULTIVA(カルティバ)」を始めることを発表している。この中で、生成AIや3D、メタバース、アフターコロナなどをテーマにしたセミナーやデジタルスキルの育成を目指す一部講座をアドビと共同開発するそうだ。

今回の連携では時期を分けて3つのフェーズで取り組みが行われる。

1つ目は、2023年10月から行われる「人材育成プログラム開発」だ。このフェーズは、多様性を網羅する人材育成のパッケージを共同で開発することを目指し、取り組みを開始することを目標とする段階だ。

11月から始まる第2フェーズでは、「人材育成を支える基盤の確立」を行う。第1フェーズで開発した人材育成プログラムを実施して、終わらせてしまうのではなく、さらなる改良を加え、定常的に学生に提供できる仕組みを作る方針だという。

そして、第3のフェーズでは「英語でのプログラム実施」を目指す。

  • ,連携・協力協定の内容

    連携・協力協定の内容

「これらの取り組みをワールドワイドな企業であるアドビさまと一緒に行うことで、世界の他の大学の好事例を知ることができ、われわれの目指す環境と親和性の高い海外の大学との連携も期待しております。 また、単純ではありますが、本学に通う多様性のある学生が参加しやすいプログラムの構築にも意義があると考えております」(三宅氏)

  • ,連携における取り組みの内容を紹介する三宅氏

    連携における取り組みの内容を紹介する三宅氏

加えて、今回の調印式では、立命館が日本の教育機関として初めて「Adobe Creative Campus」の認定を取得する構えであることも発表された。

Adobe Creative Campusとは、デジタルクリエイティブツール「Adobe Creative Cloud」や「Adobe Express」を活用する、先進的なカリキュラムや教育活動を推進する教育機関の認定制度で、学生のクリエイティブデジタルリテラシー育成に特に力を入れている高等教育機関のみが認定されているブランドだ。

この認定を受けることができれば、世界の大学との情報交換や連携が行えるほか、デジタルリテラシー育成の取り組みに関してアドビから特別な支援を受けることができる。また、アドビのグローバル教育チームによるAdobe Creative Campus限定のイベントなども用意されているそうだ。

Adobe Expressを活用した模擬授業

調印式の後には、アドビ コミュニティエバンジェリスト 兼 エデュケーションリーダーの境祐司氏を講師に迎え、生成AIを活用した創造的問題解決手法の体験」というテーマで模擬授業が実施された。

この約40分間の模擬授業には、立命館守山高校、立命館大学映像学部、立命館大学経営学部の学生19名が参加し、Adobe Expressを活用して創造的な問題解決を体験した。

授業の構成としては、はじめに「創造的な問題解決とは?/事例紹介」「Adobe Expressとは?/生成AIとは?」といった基礎的な座学を行ったあと、実際にAdobe Expressを活用して「10年後の自分と今やるべきこと」をイラストで表現する実践が行われた。

  • ,模擬授業の様子

    模擬授業の様子

学生たちは境氏に倣いながらAdobe Expressを操作し、約20分を掛けて「学校の先生になりたい」「世界中を旅したい」といった自身の未来像を生成AIを活用して完成させていた。

最後の講評の時間には、特に目を惹かれた作品として以下の作品が取り上げられた。

  • ,学生の作成した作品

    学生の作成した作品

この作品を作った学生は、この模擬授業が初めてのAdobe Expressの操作だったそうで、自分のイメージするイラストを作る操作性の良さを評価していた。

今後、両者はこのような授業を通してクリエイティブ人材育成およびデジタルリテラシー育成を推進していきたい構えだ。