京都大学(京大)は9月28日、国際プロジェクト「CAnadian NIRISS Unbiased Cluster Survey」(CANUCS)の観測から、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を用いた観測により、初期宇宙において「赤ちゃん銀河」同士が合体、急成長している現場を発見したことを発表した。

同成果は、京大大学院 理学研究科の浅田喜久大学院生、米・セント・メアリーズ大学大学院理学研究科のSawicki Marcin教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英国王立天文学会が刊行する天文学術誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society Letters」に掲載された。

  • 今回発見された「赤ちゃん銀河」同士の合体の様子

    今回発見された「赤ちゃん銀河」同士の合体の様子。本来は2つの銀河だが、両銀河は巨大な銀河団の後方に位置しているため、重力レンズ効果により光の経路が曲げられた結果、両銀河が二重に観測される(像Aと像B)。右上図はこの重力レンズ効果の概念図。左下図は実際のJWSTによる観測画像を用いた擬似カラー画像。左上と右下に、2つの銀河のペアが二重に観測されている様子の拡大図が示されている(それぞれ像Aと像B) (C)Marcin Sawicki, Yoshihisa Asada, and the CANUCS collaboration (出所:京大プレスリリースPDF)

CANUCSは、JWSTを用いて銀河の宇宙論的進化の様子を調べることを目的の1つとした大規模観測プロジェクトであり、120億光年以上も遠方の銀河の様子を詳細に調べるためには可視光線の情報が重要となるが、そのような遠方の銀河からの可視光線は宇宙膨張により2μmよりも長波長に伸びてしまうため、ハッブル宇宙望遠鏡では観測不可能だったが、JWSTならそのような波長でも観測することが可能だという。

さらにCANUCSプロジェクトでは、重力レンズ効果を用いてより遠くの暗い天体の様子を調べることも目指しており、同効果を受けた天体は本来のその天体の明るさよりもさらに明るく観測される。つまりCANUCSプロジェクトでは、重力レンズ効果とJWSTの観測を組み合わせることで従来よりも遥かに暗く、成長初期段階にある遠方銀河の進化の様子を詳しく知ることができるのである。

研究チームは今回、CANUCSプロジェクトで観測された銀河団領域「MACSJ0417.5-1154」の背後において、赤方偏移5以上(宇宙年齢で約10億歳未満)にある形成初期の銀河の成長について調査を行うことにしたという。

その結果、赤方偏移5.1付近にある2つの超低質量銀河が衝突している様子が発見された。「ELG1」と「ELG2」と命名されたこの2つの銀河は、どちらも天の川銀河の1万分の1以下という超低質量しかなく、形成されて間もない銀河であると考えられるという。

このような遠方にある超低質量の銀河は極めて暗いため、本来ならJWSTでも詳細な観測は困難だが、重力レンズ効果により本来の明るさよりも15倍程度明るく見えていることから、詳細な観測が実現された。

今回の観測では、複数のカラーフィルタによる撮像観測が行われその結果、両銀河も超低質量なだけでなく、活発な星形成活動も明らかになった。特に両銀河の場合、その特徴的な色から何らかの要因で最近唐突に星形成活動が活発になったことが示唆されたという。これまでの近傍銀河の観測的研究から、銀河同士の衝突現象は星形成活動を誘発する場合があることがわかっている。両銀河は今まさに銀河同士の衝突を経験していることから、活発な星形成活動は銀河衝突に由来すると考えられるとした。

さらに研究チームは、両銀河では、その進化の大部分が銀河衝突によって行われるのではないかと予想しているという。両銀河はこれまで細々と星を作ってきていたが、今回の衝突により急激な星形成活動が誘発され大量の星が形成されている。今後、両銀河が合体し、1つの銀河になる時には星質量にして元々の銀河の4倍以上の銀河へと成長する可能性が推測された。

両銀河は重力レンズ効果によって約15倍の増光を受けた極めて希な天体であり、初期宇宙における形成初期の銀河の進化の様子を調べる上で絶好の観測対象であるといえるという。今回の結果は複数のカラーフィルタによる撮像観測に基づいたものであり、さらなる調査のためには分光観測による銀河のスペクトル解析が必要不可欠とする。実際、CANUCSプロジェクトによる観測の一環として、JWSTを用いた分光観測がすでに実施済みで、現在は解析中とした。

さらには、ミリ波サブミリ波などの電波領域での観測も行うことで、両銀河に含まれる分子ガスの様子が明らかにされることも期待されるという。分子ガスは星形成の基となる重要な構成要素であり、これらの銀河中に残されている分子ガスの量から「なぜ銀河衝突によって星形成が促進されたのか」という、より根源的な謎を解き明かすことにつながるとした。