京セラは9月28日、太陽光発電システムによる再生可能エネルギー(再エネ)の電力調達・需給管理・電力販売を一貫して行う「再エネ電力供給ビジネス」に2023年10月1日より参入することを発表した。
同社は1973年の第一次オイルショックを受けて、省エネや代替エネルギーとしてのクリーンエネルギーに対する期待の高まりを受け、1975年に松下電器産業(現:パナソニック)やシャープなど日米5社で合弁会社「ジャパンソーラーエナジー(JSEC)」を設立、太陽電池の研究開発ならびに太陽光発電事業を開始した。以降、50年近くにわたって、多くの日本の太陽電池メーカーが中国勢を中心とした海外勢の猛攻から事業の撤退を余儀なくされる中、創業者でもある稲盛和夫氏の、「太陽エネルギーを通じて、人々の幸せに貢献する」という想いを継承し、太陽光発電ビジネスを連綿とこれまで展開してきた。
同社エネルギーソリューション事業部長の池田一郎氏は、「現代は新たなエネルギー危機の時代」との認識を示す。オイルショック当時とは大きく異なる世界的な異常気象の頻発、そしてロシアのウクライナ侵攻などによる地政学的、政治的な理由によってエネルギー価格が変動する時代が現代であり、同氏は「電気は安定して手に入れられるものではなくなった」と現在の状況を分析する。
そうした中、気象条件などによって発電量が変化するため不安定電力と言われてきた再生可能エネルギーだが、逆に価格に関しては長期にわたって一定のレベルで供給できるというメリットを打ち出せるようになってきたとも言える。
また、企業が環境問題に取り組むことはその存在と活動に必須の要件と見なされるようになってきており、持続可能な発展を続けながら、気候変動にも対応するといった相反する2つの課題を解決することが求められるようになってきた。そうした課題の解決に向け、多くの企業がCO2の排出量削減を可能にする手法の1つとして再生エネルギーの活用に踏み切るという見通しから、今回、同社は再エネ電力供給ビジネスに参入することを決めたという。
「企業が望むのはクリーンで安心なエネルギー」であり、そのためには商品の品質や信頼性が高いことはもとより、強固な施工や充実したアフターサービス体制、事業運営ノウハウ、長期間対応可能な企業力などが必要であり、50年近く太陽光発電を扱ってきた稀有なメーカーである京セラだからこそできるビジネスであると判断したと同氏は自社の強みを説明する。
一貫体制だからこそできる高品質の実現
同社が挑むこのビジネスの最大のポイントは、長年にわたる太陽電池パネル/モジュールの製造ノウハウと、それに基づく長期信頼性を可能とする実績。1984年に太陽光発電システムの研究開発と啓発を兼ねて、千葉県に設立された「佐倉ソーラーエネルギーセンター」に設置された多結晶シリコン太陽電池モジュールは、36年ほど経過した2021年の段階で出力低下率17.2%(実績データをベースに、出力特性の測定精度やばらつきなどといった外的要因も考慮した数値)で稼働を継続していることが確認されているほか、設置地域、設置形態、パネル設計などから高い精度で生涯発電量や残存寿命を予測可能な長期信頼性設計・予測技術「SoRelia」を2022年に開発。封止材1つとっても、独自の高温高湿条件での試験で市場流通品や一般封止材が20年以内に劣化する一方、動作独自の封止材ではそれ以上の長い期間に渡って高い出力を維持できることなども確認しているとのことで、「将来廃棄されるパネルの寿命延伸や発電の資産価値拡大といった付加価値も京セラだからこそ提供できる」(同)とする
ビジネスの概要としては、京セラ自身が手掛けた太陽光発電(PV)による電力供給元から電力の供給を受けて、電力の需給調整を実施、そしてそれを京セラならびに再生エネルギーを購入したい企業などに販売するといった流れとなる。「京セラとして、高品質の機器、発電事業で培った事業ノウハウ、再エネ電力販売のライセンスを組み合わせて、最初のハードウェアの提供から電力の供給までワンストップサービスを提供する。すべてがわかっているメーカーだからこそ、顧客の不安に寄りそうタイムリーな対応などもできる。すべてを知るメーカーだからこそできるビジネス」とその特徴を同氏は説明する。
電力の供給元としては主に4パターンが想定されている。1つ目は大東建託と2023年4月より開始したZEH賃貸集合住宅からの供給。2つ目は全国規模で建設・運営を予定するNon-FIT太陽光発電所。3つ目が新サービスとなる産業用オンサイトPPA(Power Purchase Agreement:電力買取契約)「京セラPPA」。そして4つ目も新サービスとなる住宅用定額サービス「ハウスマイルe」。
初期投資ゼロ円で企業のCO2排出削減を可能とするオンサイトPPA
京セラPPAは、太陽光発電システムのリース提案事業、電力サービス事業を手掛ける京セラEPAが提供するサービスで、太陽光発電を導入したい企業の敷地内に初期投資ゼロ円で太陽光発電システムを設置。京セラEPAとシステム維持ならびにメンテナンスなどの電力サービス契約を締結し、太陽光発電システムの発電した電力の自家消費量に応じたサービス料を京セラEPAに支払うほか、余剰電力については京セラをはじめとした他の企業へと販売することで、サービス料の低減を図ることも可能な仕組みとなっている。
また、契約満了後には設置企業に太陽光発電システムを無償譲渡し、設置企業が自社でそのまま利用できるパターンと、再契約を行うパターン、そして撤去するといった3つのパターンから選ぶことが可能。設置場所についても、長年にわたる太陽光発電システムを手掛けてきたノウハウから、建物の屋根以外にも駐車場など、さまざまな場所に設置することで発電量を稼ぐことが可能だとしている。
太陽光発電システムと蓄電システムを手軽に利用可能に
一方のハウスマイルeは、個人住宅向けサービス。京セラPPA同様、基本初期費用なしで太陽光発電システムならびに同社の手掛ける蓄電システムをセットで導入することができるというもの(工事費が発生する場合がある点に注意が必要)。導入プランは太陽光発電システムで電池容量が2~4kwの「自家消費プラン」、4~6.5kwの「標準プラン」、6.5kw以上の「大容量プラン」の3種類、蓄電システムについても容量5kWhの「標準プラン」、10kWhの「安心プラン」、15kWhの「超安心プラン」の3種類を用意。それぞれを組み合わせることが可能なほか、契約期間も10年もしくは15年を選択することが可能。契約期間満了後は太陽光発電システムならびに蓄電システムは設置者に無償譲渡される。
ちなみに蓄電システムには、同社が世界に先駆けて商用化を実現したクレイ型リチウムイオン蓄電池「Enerezza(エネレッツァ)」を採用。高安全性と長寿命、高リサイクル性を実現した蓄電池で、電極の梱包を個別包装することで、発熱リスクを低減し、発火リスクを抑えたため、セルの発火試験において80%の変形状態であっても発煙しないことも確認済みという安全設計が特徴となっている。
同社の試算では、東京都の戸建て住宅で、太陽光発電システムを自家消費プラン、蓄電システムを標準プランで10年契約の場合、導入前の月の支払い総額が1万8314円であったのが、10年目まではシステム利用料金と電気料金の合算額が毎月1万6859円、11年目からパネル寿命と想定される30年目まで機器譲渡に伴うシステム利用料金の削減により、月額8359円まで下げることができるようになるとしている。
なお、同サービスはWebからの申し込みとなっており、申し込み後、実際に契約に至る前までの段階で、どの程度の太陽電池が設置できるか、といった設計提案のスキームも用意しているとのことで、ユーザーの不安にも適切に対応するとしている。また、10年契約と15年契約のそれぞれのメリット・デメリットは、15年契約の方が支払い総額は割高になるものの、月々の負担額は安くなる(10年は逆で支払い総額は抑えられるものの、月々の負担額は高くなる)としている。同社では、10月1日のサービス開始以降、ハウスマイルeだけで2027年3月期までの3年間で全国で2万戸の導入を目指したいとしている。