産業技術総合研究所(産総研)、東北大学、日本原子力研究開発機構(JAEA)、東京大学、九州大学(九大)の5者は9月27日、探査機「はやぶさ2」による小惑星リュウグウ上空から観測した表面のデータと、同小惑星からの採取試料を地球大気にさらさずに測定したデータの直接比較を実施した結果、どちらもよく一致する一方で、水の有無を知る鍵となるヒドロキシ基(-OH)による吸収に明確な違いがあることが判明したと共同で発表した。
同成果は、産総研 地質調査総合センター 地質情報研究部門 リモートセンシング研究グループの松岡萌研究員、産総研 デジタルアーキテクチャ研究センター 地理空間サービス研究チームの神山徹研究チーム長、東北大大学院 理学研究科 地学専攻の中村智樹教授、同・天野香菜大学院生/学術振興会特別研究員、JAEA 物質科学研究センター 階層構造研究グループの大澤崇人研究主幹、東大大学院 理学系研究科 附属宇宙惑星科学機構/地球惑星科学専攻の橘省吾教授、九大 理学研究院 地球惑星科学部門の奈良岡浩教授、同・岡崎隆司准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の地球・環境・惑星科学を扱うオープンアクセスジャーナル「Communications Earth & Environment」に掲載された。
産総研は、6つの初期分析チームのうち大型粒子を扱う「石の物質分析チーム」に属しており、試料の中でも比較的大きな1~8mmのサイズの計17個の粒子を対象とし、さまざまな分析を実施してきたとする。
「はやぶさ2」がリュウグウの20kmほど上空から取得した反射スペクトルから、同小惑星は水や有機物に富む始原的小天体の「Cb型」であることが判明している。また採取試料は、始原的な炭素質隕石「CIコンドライト」によく似た物質であることも明らかにされている。
そこで今回は、「はやぶさ2」の光学航法望遠カメラ「ONC-T」と、赤外分光計「NIRS3」を用いて、リュウグウの赤道付近上空で取得された可視~近赤外域の反射スペクトルと、試料の測定で得られた反射スペクトルの直接比較が行われた。その結果、明るさやスペクトルの傾きなどの特徴は大変よく似ている一方で、水を含む粘土鉱物(含水ケイ酸塩)の存在を示すOH吸収に2倍以上の深さの違いが見られたとした。
データの不一致の理由としては、(1)宇宙風化度の"強弱"、(2)粒子の粒径、(3)粒子の空隙率、の3つが考えられるとする。そこで、実験的にそれぞれが反射スペクトルをどのように変えるのかが詳細に調べられた。なお、このような実験には多量の試料が必要なため、今回は希少なリュウグウ試料ではなく、同小惑星に似て含水ケイ酸塩に富む始原的なマーチソン隕石が用いられた。
その結果、データ不一致の最大の要因は、同小惑星が宇宙風化作用を受けて、表面(1/100mm程度)で結晶レベルの脱水が進んでいたためと解釈できたとする。また副次的要因として同小惑星の地表の粒径が大きく、砂粒より岩肌に近いような状態、または密度が小さくてすかすかな状態か、さらにはその両方だったことが示されたとした。
さらに、初代「はやぶさ」が探査したS型小惑星イトカワとリュウグウとの比較も行われた。両小惑星は、軌道や表層年代が似ており宇宙風化環境も近いことが考えられるという。
しかし反射スペクトルの特徴は異なり、イトカワはリュウグウと違って、地域により明確な二分性が見られた。つまり、宇宙空間でCb型小惑星とS型小惑星が同様の環境にある時、前者ではどこも均一に宇宙風化が進むのに対して、後者では風化していないエリアが一部生き残ることがわかった。宇宙風化を再現した室内実験の結果と合わせて解釈すると、Cb型小惑星ではS型小惑星よりも宇宙風化が進みやすいことが示唆された。
今回の研究結果から、リュウグウのみならず、他の始原的小天体の観測データを正確に解釈するためには、粒径、空隙率、宇宙風化度といった要因を考慮することが重要と考えられるという。また、「はやぶさ2」によるタンタル球を撃ち込むサンプル採取法や人工クレーター生成法は、風化していない試料の採取という点で優れた探査技術として、今後の展開が期待されるとした。
また今回の観測データ解釈手法は、今後のより詳細なリュウグウ粒子の分析や、NASAの探査機OSIRIS-RExによって地球に届けられたばかりの小惑星ベンヌの試料の分析が進むことによって、さらなる検証ができると考えているとしている。