芝浦工業大学(芝浦工大)と京都産業大学(京産大)は9月26日、体内の細胞にも存在する「動く繊毛」が、衝突・振動・せん断力・滑り力というさまざまな機械刺激を感じ、繊毛の運動パターンを変化させていることを解明したと共同で発表した。
同成果は、芝浦工大 機械制御システム学科の吉村建二郎教授、同・生命科学科の渡邉宣夫教授、京産大 産業生命科学科の若林憲一教授らの研究チームによるもの。詳細は、物理・生命科学・地球科学などの幅広い分野を扱うオープンアクセスジャーナル「iScience」に掲載された。
動物の繊毛についてはこれまで、“動く繊毛”と“動かないが感覚器として働く繊毛”の2種類があると考えられてきた。しかし、前者が感覚器としての機能を持つのかについては、よくわかっていなかったという。
そこで研究チームは今回、単細胞生物のクラミドモナスを用いて、動く繊毛が力や変形といった機械刺激を感じるかどうかを調査した。その結果、衝突・振動・せん断力・滑り力というさまざまな機械刺激を、繊毛にある「TRP11」という受容体型イオンチャネルで感受し、そのタイプに応じて繊毛の運動パターンを変化させていることが明らかになったという。
研究チームはこの研究結果について、動く繊毛が周囲の力学的環境を自ら感じ、運動を制御しているという新たな可能性を示すとする。また、繊毛という微細な装置に、汎用性が高いセンサと多機能な運動装置が備わっていることは、生物の精緻さを考えるうえで興味深い発見だという。
今回の発見により、“繊毛が運動装置であると同時に感覚器である”という新しい見方が広がり、機械刺激以外に科学刺激や熱刺激にも感受性がある可能性が示唆された。なお、すでにクラミドモナスの繊毛がカプサイシンなどの化学刺激にも反応することは報告されており、また生存に適した温度に移動する行動(走熱性)から温度センサを持ち合わせているのかについても、研究チームは現在研究を進めているとのことだ。
繊毛やイオンチャネルは、生物の基本的な機能を支えているため、その異常は繊毛関連疾患やチャネル病といったさまざまな疾患群の原因となる。研究チームは、今回の研究で繊毛とイオンチャネルの基礎的な機能を解明することにより、それら疾患の原因解明や治療法開発につながることが期待されるとしている。