竹中工務店、物質・材料研究機構(NIMS)、淡路マテリアの3者は9月26日、Fe-Mn-Si系合金(FMS合金)を用いた長周期・長時間地震動対策に有効なブレース型FMS合金制振ダンパーを改良し、2023年7月に竣工した中日ビル(愛知県名古屋市)に初適用したことを発表した。

FMS合金は、主成分のFe(鉄)に高濃度のMn(マンガン)やSi(ケイ素)などを添加した、疲労耐久性に優れる鉄系形状記憶・高耐疲労合金で、2022年に指定建築材料として国土交通大臣認定を取得するなど、建物の制振材としてさらなる応用が期待されている。

竹中工務店など3者は、一般的な鋼材の約10倍もの疲労耐久性を有するFMS合金の特徴を活かし、複数回の大地震や長周期・長時間地震動に有効で事業継続性向上に寄与する制振ダンパーの共同開発に向けて、2014年からプロジェクト適用を進めてきた。そして2019年には、ブレース型FMS合金制振ダンパーの開発に至ったとする。

しかしこのダンパーにおいて、さらに適用範囲や設計自由度を拡大するためには、ダンパー1基あたりの地震エネルギー吸収性能をさらに高める必要があったという。そこで3者はその改良に向け、それぞれ役割分担を行いながら技術開発に着手したとのことだ。

そして取り組みの結果、従来は困難であったFMS合金どうしの溶接技術を確立し、開発済みであったブレース型FMS合金制振ダンパーをベースとしながら、地震エネルギーを吸収するダンパー芯材部分を、平鋼を用いていた従来の矩形から、平鋼を溶接して組み立てた十字型へと変更したとする。

  • 今回改良が施されたブレース型制振ダンパー(左)と、2019年に開発された従来型のブレース型制振ダンパー(右)の比較。

    今回改良が施されたブレース型制振ダンパー(左)と、2019年に開発された従来型のブレース型制振ダンパー(右)の比較。(出所:)

この変更における3者の役割として、まずNIMSは、FMS合金の耐疲労性能を最大限に活かすため、専用の溶接材料(溶接ワイヤ)を新たに設計開発したという。また淡路マテリアは、FMS合金の大型平鋼や溶接材料の製造体制を構築。さらに、同合金どうしの溶接施工管理技術を確立したうえで、ダンパー用芯材の製造も担当した。そして竹中工務店は、前出の2者との技術開発成果を活用して、新たな制振ダンパーの設計法を確立し、構造性能評価を行ったという。

そして芯材の十字型へと変更した結果、従来型と比較して1基あたり約2倍の地震エネルギーを確保することに成功。開発材料の耐疲労性能を活かした良好な性能を確認したとする。この性能向上により、設置するダンパーの総数を削減することができるため、より自由度の高い建築デザイン・大空間の実現・空間の有効利用が可能となり、超高層建物や大規模建物への積極的な適用が可能になったとしている。

またこの改良を受け、2023年7月に竣工した中日ビルでは、長周期・長時間地震動対策に加え、複数回の大規模地震を受けても事業を継続することを目的に、今回改良された制振ダンパーに加え、オイルダンパーや粘弾性ダンパーなどの制振ダンパーを各階に配置。高さ158mという同ビルの中でも、階高が高く地震時の層間変形が特に大きくなる7階・8階には、今回の制振ダンパーを32本適用したといい、エネルギー吸収性能の拡大によりダンパー本数が半減したことで、設計計画の自由度向上にも貢献したとする。

  • (左)中日ビルの外観。(右)改良されたダンパーの取り付け状況。

    (左)中日ビルの外観。(右)改良されたダンパーの取り付け状況。(出所:竹中工務店)

3者は今後、疲労耐久性に優れるうえ長周期・長時間地震動対策にも有効な新ダンパーを積極的に展開することで、建築分野に加え土木や他産業分野への応用を目指すとのこと。またこれまでと同様に、複数回の大規模地震を受けても被害を最小限に留めることが可能な特徴を活かして、地震後の事業継続性の維持に寄与していくとしている。