自動車向けサイバーセキュリティソリューションを提供するVicOne(ビックワン)は9月26日、日本法人の設立と戦略的グローバル本社機能の設置を発表した。同日には記者会見が開かれ、同社の事業及び国内パ-トナーとの協業状況を説明した。

トレンドマイクロと連携しローカルサービスを国内提供

2022年に創業したVicOneは、台湾に本社を置く企業でトレンドマイクロの100%子会社となる。ドイツ、米国、インド、韓国に現地法人を置き、今回、日本での事業展開を強化するため、戦略的グローバル本社機能を有する法人を東京に新設した。同社の社員数は現状で約100人となり、日本法人にはそのうちの30%が在籍しているという。今後は営業、マーケティングなどの人材採用を進めるそうだ。

同社はVSOC(Vehicle Security Operations Center)、車載向けIDPS(Intrusion Detection and Prevention System)、脆弱性管理、ペネトレーションテスト、データプライバシー保護など、自動車産業向けのサイバーセキュリティ製品を提供している。

  • VicOneが提供するセキュリティソリューション

    VicOneが提供するセキュリティソリューション

技術革新に伴って電気自動車やコネクテッドカーが実現可能になったことにより、今日ではすべての新車が何らかの通信方式でインターネットに繋がれるようになっている。しかし、その分だけ、人々はサイバー脅威に晒されることになった。そうした社会変化を背景に、同社はOEM(自動車メーカー)やTier1(総合部品メーカー)などと共同実証を実施したうえで、自動車に特化したサイバーセキュリティソリューションを開発し、グローバルに提供を拡大してきた。

VicOne CEO(最高経営責任者)のマックス・チェン氏は、「これまで、実証済みのソリューションがお客さまに採用され、幅広い戦略的パートナーシップを構築することができた。加えて、自動車サイバーセキュリティ領域におけるソートリーダーシップを発揮できたことで、自動車業界で高い評価を得られるなど、ビジネスのファーストフェーズにおいて成功を収められた。今後、さらなるスケールアップを図るために、日本に新法人を設立した。世界で自動車サイバーセキュリティビジネスを拡大していきたい」と語った。

  • VicOne CEO マックス・チェン氏

    VicOne CEO マックス・チェン氏

日本にグローバル本社機能を置いた理由についてチェン氏は、「市場シェア・クオリティの両面において日本が世界の自動車産業のリーダー的な立ち位置にいる」と話し、親会社であるトレンドマイクロが東京に本社を置く企業であり、同社のリソースを最大限に活用できる点を挙げた。

「日本にグローバル本社機能があることで、日本の顧客へ積極的に投資をしやすくなる。また、トレンドマイクロは日本の文化・ビジネス慣行を理解しているため、同社と協力することによりネイティブでローカルなサービスを日本に提供していける。他方で、日本のOEMやTier1が海外に事業を展開していく中で、グローバルなプレゼンスを持っている当社が現地で手厚いサポートを提供できるだろう」とチェン氏は説明した。

VicOneの会長には、トレンドマイクロ CFO(最高財務責任者)のマヘンドラ・ネギ氏が就任した。同氏によれば、トレンドマイクロは、IT・OTとは異なるアタックサーフェスや自動車特有のサイバー脅威が観測され始めたことから、数年前にコネクテッドカーのセキュリティを調査・研究する専門チームを立ち上げたという。

「実証実験やソリューション開発を進める中で、事業として拡大していくためにはトレンドマイクロよりも特化した企業が必要だと考え、当社から独立した企業としてVicOneを設立した。当社のサイバーセキュリティ基盤と脅威リサーチャーのグローバルネットワークから得られるインサイトを国内の顧客に提供していきたい」(ネギ氏)

  • トレンドマイクロCFO 兼 VicOne 会長 マヘンドラ・ネギ氏

    トレンドマイクロ CFO 兼 VicOne 会長 マヘンドラ・ネギ氏

チップメーカーや各種プロバイダーなどとパートナーシップを拡大

VicOneは今後、国内におけるパートナーシップ拡大に力を入れるという。日本では、富士通、ティアフォー、日立Astemo、パナソニック オートモーティブが同社のパートナーとなっている。

チェン氏は説明会にて、「自動車産業は巨大で複雑なエコシステムを築いている。さまざまな顧客にソリューションを提供するためには、緊密なコミュニケーションと専門性への対応が求められる。チップメーカー、Tier1サプライヤー、サービスプロバイダー、自動運転プロバイダー、充電システムプロバイダー、規制・認定コンサルタントなど、幅広い業種と戦略的にパートナーシップを締結することが重要となる」と強調した。

  • VicOneの戦略的パートナーシップ

    VicOneの戦略的パートナーシップ

説明会では、オープンソース自動運転ソフトウェアや自動運転向けの開発プラットフォームなどを提供するティアフォーとVicOneとの取り組みが紹介された。

同社は2年ほど前からトレンドマイクロ、VicOneとともに、自動運転車のサイバーセキュリティ検討に向けた実証実験を続けてきた。自動運転車の脆弱性に対して模擬的に攻撃を行う実証実験では、自動運転のソフトウェア側でセキュリティ対策を施さずにVicOneの製品のみで攻撃を防ぐことが可能か検証したそうだ。

ティアフォー 創業者 CEO兼CTO(最高技術責任者)の加藤真平氏は、「SDV(Software Defined Vehicle、ソフトウェア定義型自動車)の実用化が目指されている中で、共通のソフトウェアで、車種や環境を選ばずに自動運転の機能を実現することができるようになってきている。そうした中では、OSとは別にセキュリティソフトウェアを導入するような、ITセキュリティを踏襲した対策が適しているのではないかと思う」と述べた。

  • ティアフォー 創業者 CEO兼CTO 加藤真平氏

    ティアフォー 創業者 CEO兼CTO 加藤真平氏

3社では実証実験に関連して、現在も自動運転車の脅威分析を続けているところだ。今後はサイバー攻撃を防御するデモンストレーションを実施するほか、自動車業界内のステークホルダーと知見の共有を図るという。