仏Yole Groupが発行した「MEMS業界の状況レポート2023年版」によると、MEMS市場は2022年の145億ドルから年平均成長率(CAGR)5%で成長し、2028年には200億ドル規模に達すると予想されるという。
MEMS市場の中で最大セグメントはコンシューマ向け分野で、その規模は2022年で76億ドル。2028年までCAGR4%で成長し94億ドルまで拡大することが予想される。同分野では、ウェアラブルアプリケーションの伸びが最近のスマートフォン(スマホ)市場の低迷を補っているという。また、2番手は自動車で、自動運転機能の性能向上がけん引役となり、2022年の27億ドルからCAGR7%で成長し、2028年には41億ドルまで拡大することが予想されている。このほか、産業、防衛、航空宇宙、医療、通信の各分野でも少なくともCAGR5%が見込まれているという。
自動車とウェアラブルが市場をけん引
Yole Groupの一員であるYole Intelligenceのテクノロジーおよび市場アナリストのPierre Delbos氏によると、「毎年、世界中で10億台以上の最終電気製品が出荷されており、それぞれの製品には多数のMEMSコンポーネントが含まれている。スマホは消費者向けMEMS市場の主な推進力となってきたが、ウェアラブル技術が成熟し、より多くの最終製品が市場に参入するにつれて、この市場シェアの一部を奪い始めている。重要なのは、消費者の世界的なインフレと不確実な世界経済に伴う需要減退の心理に対し、新たなウェアラブル技術の出現が、特に中国で顕著であるスマートフォン購入の減少を相殺するのに役立っている」と現在の市場けん引役について説明する。
ワイヤレスヘッドフォン、スマートウォッチ、AR/VRヘッドセットなどの製品は、ナビゲーション支援や高度測定、空間オーディオ、睡眠モニタリングなどといった新たな機能を備えるようになっている。その結果、OEMメーカーはより多くのMEMSコンポーネントを統合してパフォーマンスをさらに向上させつつ機能の強化も図るため、MEMSの普及率は増加する方向にある。
同様に、自動車分野でも、自動運転機能とADAS機能の統合によって推進されるMEMS普及率の増加が、自動車市場全体のやや横ばい/低成長の傾向を打破するのに役立っている。2030年移行という長期的な観点では、電気自動車(EV)で使用されるMEMSセンサの数は全体的に減少することが予想されるが、他のセグメントでは成長が見込まれている。直近でけん引するのは、GNSS測位用のMEMS慣性センサ、LiDAR用のMEMSマイクロミラー、車内の快適性を実現するMEMS環境センサなどのコンポーネントに対する需要の伸びで、その結果、車載MEMS市場は2028年までに41億ドルに成長することが予想されている。
3番目の市場である産業分野は、倉庫の自動化とIndustry 4.0がけん引役となり、工場内のロボットや自動運転車用の慣性センサ、発振器、圧力センサが重要コンポーネントになるとYoleは見ている。
また、ハイエンドのMEMS慣性センサを必要とする位置センシングは、引き続き防衛および航空宇宙分野で重要なアプリケーションとなる一方、ウェアラブルの導入に伴う診断および監視機器の小型化の継続により、医療分野におけるMEMSコンポーネントの需要は増加するとYoleは見ている。
さらに、電気通信市場は、2028年までのCAGRで最大の伸び率28%が予想されている。スイッチング用の光MEMSおよびMEMS発振器が、データ需要の指数関数的な増加に対応する上でますます重要になっているためである。
数量の点では産業、防衛、航空宇宙、医療、通信市場はMEMS市場全体の5%ほどにすぎないが、これらの市場の性能要件は民生向けと比べて厳しいため、コンポーネントのコストも民生用および自動車用よりも高くなっている。
2022年のMEMSサプライヤランキングトップはBosch
2022年のMEMSサプライヤ別売上高ランキングを見ると、最大手のRobert Boschは、消費者向けならびに自動車向けの両方の事業セグメントを有し、そのバランスを上手く取ることで収益を維持しており、前年比12%増の19億4500万ドルという高い伸びを達成している。
Yole Intelligence のテクノロジーおよび市場アナリストのPierre-Marie Visse氏は、「自分たちが販売する最終製品に数百ドル、数千ドルを請求するハイエンドの顧客にとって、コストはパフォーマンスほど重要な要素ではない。これにより、ハイエンドのサプライヤ(例えばAppleに製品を供給するBosch)は、競争力を維持しながら価格の柔軟性を保つことができており、そのことが安定した利益率と研究開発予算の確保を可能とし、ひいては安定したイノベーションのリズムを生み出すことにつなげている。これにより、Boschのような企業はより効果的にイノベーションを行うことができるようになり、ハイエンド顧客を引き付け、価格を高く保つことができるといった好循環の恩恵を得ている」と分析している。
対照的に、Oppo、Motorola、Xiaomiなどといったブランドのユーザーは、AppleやSamsungのユーザーに比べて、パフォーマンスや機能に対して割増料金を支払うことにあまり積極的ではない。これらのブランドのポートフォリオにもプレミアムモデルがいくつかあるにもかかわらず、ミッドエンドからローエンドのデバイスがこれらのブランドの製品の大部分を占めているという。
MEMSサプライヤの2位はBroadcom、3位はQualcommと米国勢が続く。また、シリコン発振器などを手掛けるSiTimeは同30%増という高い伸びを示している。
トップ30社の多くがプラス成長を達成しているが、いくつかの企業はマイナス成長となっている。例えばMEMSマイクサプライヤのGoermicroの売上高は同14%減、スマホ業界が経験した市場減速と、中国サプライヤ間の熾烈な競争の影響を受けた結果だという。中価格帯から低価格帯の消費者向けブランドを供給する企業は、ハイエンド顧客を抱えるMEMS企業よりも、世界経済の混乱と消費低迷の影響をより大きく受けている。これは、MEMSエコシステムの二極化につながっているという。
Yole SystemPlusのテクノロジーおよびコストアナリストのKhrystyna Kurk氏は「競争力を維持し、確実に設計を勝ち取るために、MEMSensing、アルプスアルパイン、GMEMSなどのMEMSプレーヤーは価格引き下げのプレッシャーにさらされており、その圧力が長年にわたってマージンを侵食している。そうなると、研究開発のための資金も減り、イノベーションの機会も減り、悪循環に陥ってしまう。さらに、ミッドエンドからローエンドのデバイスは、コンポーネントの製造が容易であるため、通常、より多くの競争が発生することになる」と解説している。
この競争は、資金と奨励金のおかげで MEMSエコシステムが急速に成長している中国で特に顕著であるが、これにより中国企業が品質を向上させ、価格で欧米企業と競争できるようになるのか、中国内での過剰供給を引き起こし、エコシステムの妨害を生み出すのか、それとも中国のエコシステムの統合が進むのか、長期的にどのように動きを見せるのかは不明である。スマホ市場の需要が健全であれば、こうした悪循環もあまり問題にならないが、この数か月の間に、Motorola、Oppo、XiaomiなどのブランドがAppleやSamsungよりも消費者支出の影響を受けており、搭載されているMEMSサプライヤ間の競争にも差が生じており、スマホの需要が急速に回復しない限り、この競争は続くものとYoleでは予想している。
MEMSサプライヤランキングトップ30社に日本勢は4社
なお、Yoleによる2022年のMEMSサプライヤ売上高ランキングトップ30に日本企業は4社がランクインしている。7位には前年比11%増と好調なTDKが入っているほか、17位にキヤノン、19位に村田製作所、28位にエプソンがそれぞれランクイン。エプソンは、2021年にはランク外となっていたが、2022年には同7.4%増と業績を伸ばし、再びランクインすることに成功した。
ただし日本企業の数は2016年には10社ランクインしていたほか、2019年で8社、2020年で7社、そして2021年は3社と年々減少。2022年はエプソンが復活したことで4社に増加したが、往時の勢いはない。YoleはMEMS業界について2極化していると指摘しているが、日本企業だけを見ても2極化が進んでいるように見受けられる。