東京大学(東大)と愛媛大学の両者は9月21日、これまでの数値シミュレーションでは、現在の月形成過程として広く支持されているジャイアント・インパクト説や、そこから予想されている月初期の変動であるマントル・オーバーターンと過去に実際に起きた月の大きさの変化(半径変化)や火山活動との整合性が取れていなかったが、新たに構築した月内部の「2次元円環モデル」で整合性を取ることに成功したと共同で発表した。

同成果は、東大大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 広域システム科学系の于賢洋大学院生、同・小河正基准教授(研究当時)、愛媛大 地球深部ダイナミクス研究センターの亀山真典教授ら共同研究チームによるもの。詳細は、惑星科学の全般を扱う学術誌「Journal of Geophysical Research: Planets」に掲載された。

  • 約37億年前の月内部の温度、マグマ量とマントル組成の描像

    約37億年前の月内部の温度、マグマ量(上)とマントル組成(下)の描像(出所:東大Webサイト)

月は誕生してから膨張を続け約38億年前にピークに達し、その後は収縮したことが明らかにされている(半径変化史)。またこの膨張のピーク時の月は、「海」における火山活動が活発だった時期でもあり、その後15~20億年程度この火山活動は継続したことが示されている(火山活動史)。初期に月内部の温度や物質はどのような状態だったのか、それがどのような進化を経て現在のような姿になったのかを理解する上で、このような月内部の歴史を数値計算で再現することは有効だという。

これまでの数値シミュレーションでは、これらの観測事実(半径変化史と火山活動史)を同時に示すことができていなかったとする。古典的な月内部進化モデルでは、約45億年前の月は内部が冷たく、その後放射性元素の発熱により暖められたと考えられており、月の初期膨張や火山活動の歴史は自然に説明できると思われていた。

しかし、そのような低温の初期状態は、現在の月形成過程として広く支持されているジャイアント・インパクト説や、そこから予想されているマントル・オーバーターンと整合的ではないという大きな課題があった。ジャイアント・インパクト説では、形成直後の月内部は高温であり、大部分は溶けていたと考えられているが、このような状態から出発した場合、初期の半径膨張を説明することができなかったという。同様に初期の火山活動史についても、最初の数億年間はあまり活発でなかったことを説明できなかったとした。

  • 観測によって示された月の半径変化・火山活動史。マグマの噴出頻度データは、Whitten & Head (2015), Icarus、より引用されたもの

    観測によって示された月の半径変化・火山活動史。マグマの噴出頻度データは、Whitten & Head (2015), Icarus、より引用されたもの(出所:東大Webサイト)

そこで今回の研究では、火成活動(マグマの生成・移動の効果)をマントル対流モデルに反映させた月内部の2次元円環モデルを新たに構築し、このような半径変化史、火山活動史を整合的に示すことができるのかどうかを調べることにしたという。

その結果、約45億年前の月内部の大部分が固体だった場合、マグマが深部で生成されてその後上昇することで火山活動が活発化すること、またマグマの生成に伴う体積膨張によって、月全体の半径膨張が引き起こされることが判明したとする。

  • 月内部進化の概略図

    月内部進化の概略図(出所:東大Webサイト)

深部で生成したマグマの大部分は部分溶融し、地球のマントルで見られるプルームのようなものとして月表面に向かって上昇し、火山活動や半径膨張を引き起こすとする。その後、マグマの冷却に伴う固化により半径は収縮し、部分溶融したプルームの上昇も鈍化していくが、このようなプルームの上昇はその後数十億年間継続することが判明したという。このような数値計算による月内部の歴史は、観測事実で示されているような火山活動史や半径変化史と整合的であることが確認されたとした。

  • 数値計算による月内部の変化

    数値計算による月内部の変化。この画像中の[1]~[5]の時代は、画像5の[1]~[5]に対応(出所:東大Webサイト)

  • 数値計算によって示された月の半径変化

    数値計算によって示された月の半径変化。画像中の[1]~[5]の時代は、画像4の[1]~[5]に対応(出所:東大Webサイト)

今回のような月初期の描像は、月の形成過程と進化過程を結びつける上で意義深いと考えられるという。たとえば、今回の研究で示された計算開始時の温度分布は、ジャイアント・インパクト後の月深部は大部分が溶けてしまうほど高温であるという説よりもむしろ、衝突前から数百度温度が上がった程度に留まるという説を支持している可能性があるとした。

また、今回の研究によって火山活動史や半径変化史が説明されたが、いくつかの月の特徴的な性質(たとえば、月の表側・裏側で地殻の厚さが異なる二分性や月の磁場を生み出すコア・ダイナモ)は、2次元の数値モデルで説明するには困難だという。今後は、今回のモデルを発展させ、3次元球殻を用いた、よりいっそう現実的な形状での月進化モデリングが期待されるとした。