岐阜大学と科学技術振興機構(JST)の両者は9月22日、重水を造影剤として医療用の1.5T級の磁場を用いる「重水素MRI法」を開発し、膵がん移植マウスモデルにおいて、放射線治療や抗がん剤治療効果を早期に検出できることを確認したと共同で発表した。

同成果は、岐阜大 高等研究院/One Medicine 創薬シーズ開発・育成研究教育拠点 先端医療機器開発部門の兵藤文紀准教授(JST 創発研究者 水島パネル)、同・大学 医学系研究科 放射線医学分野の松尾政之教授、同・Abdelazim Elhelaly博士研究員、同・大学 応用生物科学部 共同獣医学科の森崇教授、同・岩崎遼太助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国がん研究協会が刊行するがんに関する全般を扱う学術誌「Clinical Cancer Research」に掲載された。

現在、放射線療法や抗がん剤による化学療法後の治療効果を正確に確認して診断するため、主にCTやMRIなどの画像診断技術による形態学的評価が行われている。しかし、がんの大きさは治療後、数週間から数か月間変化しないこともあるため、治療効果の判別には時間がかかるという課題を抱えていた。また治療効果が得られない場合には時間的な損失が大きいため、がん治療の効果を早期に予測する方法が強く望まれていた。

原子核が陽子1個の水素に中性子が1個加わった水素の安定同位体である重水素は、核スピンを持つためにMRIで信号を得ることが可能だ。つまり、重水素をMRIに用いれば、重水素化したさまざまな分子も可視化できる可能性がある。また、重水素MRI法による機能・代謝イメージングへの展開も期待されているという。

  • 膵がんモデルマウスの重水素イメージング

    膵がんモデルマウスの重水素イメージング。放射線治療、抗がん剤治療後、正常組織に比べ、がん組織では早期に画像強度が変化。それに対し、MRIで観察されるがんの大きさには変化がないことから、形態に依存しない早期の治療効果判別法として期待されるとした(出所:共同プレスリリースPDF)

これまでの重水素MRIの研究では、ヒトへの応用が困難な7Tといった超高磁場MRIを用いた報告がなされていた。医療で用いられているMRIは1.5Tほどであり、そのレベルの磁場の重水素MRI法を開発できれば、迅速な医療への応用が期待されるという。そこで研究チームは今回その開発を試みることにしたとする。

まず1.5Tの磁場に適合する検出器(9.8MHz)を用いて、重水と水を含む疑似試料が重水素イメージングにより解析され、今回の技術の精度が評価された。膵がん移植モデルマウスが作製され、30%の重水を含む水が自由飲水にてマウスに与えられ、経日的に重水素イメージングが実施された。すると、マウスの重水素のMRI信号は経日的に増強し、特にがん組織では顕著に蓄積することが明らかにされた。

次に、放射線治療もしくは、抗がん剤治療(ゲミスタビン、アバスチン)などが行われ、1日目、3日目、7日目に重水素イメージングおよび通常のプロトン(陽子=水素イオン)イメージング(解剖学的情報)が取得された。すると、MRIで描写されるがんの大きさは治療10日後においても変化はなかったが、重水素イメージングでの重水の蓄積(正常肝組織のミトコンドリア機能エネルギー代謝には影響なし)は、いずれの治療においても治療1日後、3日後に明確に変化することが確認された。

これらの結果から、重水素MRI法はがん治療後のがんの大きさが変化する前に、治療効果を評価できる新たなイメージングバイオマーカーとして期待されるとした。

今回の研究成果は、がん治療の早期治療効果の判別への臨床展開に加え、さまざまな重水素含有分子を用いた機能・代謝イメージングへの応用など、広範な応用が期待されるとしている。