東北大学は9月20日、水の動きの実観測データを利用し、深層強化学習を用いてその動きをバーチャル空間内でリアルタイムに再現する新たな流体シミュレーション方法を開発したことを発表した。
同研究成果は、東北大 電気通信研究所の朱健楓大学院生(東北大大学院 情報科学研究科所属)、同・北村喜文教授、東北大 流体科学研究所の高奈秀匡教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国計算機学会(ACM)の科学誌「ACM Transactions on Graphics」オンライン速報版に掲載された。また、12月12日~15日にオーストラリアで開催されるコンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術のトップコンファレンス「SIGGRAPH Asia 2023」で口頭発表される予定だ。
VR体験の利用の幅が広がっている近年、人の目前に置いてある水槽などの容器に入った液体を手などで撹拌する様子をバーチャル空間で再現できれば、それを遠隔地の人と共有して知見を共有したり、ゲームなどの娯楽体験に利用したりと、新たな応用可能性が期待される。しかし、液体の流れをリアルタイムで3次元計測し再現する方法は、これまでなかったという。
液体の流れを計測するさまざまな技術は、すでに存在している。しかしながら、一般的な手法である液体に混入させた微粒子をカメラで観測する方法では、リアルタイムでの3次元計測は困難であり、また不透明な容器に液体が入っている場合や、液体自体が濁っている場合などは、計測ができないという課題があった。
これらの課題に対して東北大の電気通信研究所では、ブイに磁気センサを組み入れて浮かべることで流体の3次元的な流れを直接的かつリアルタイムに計測する、磁気式3次元モーションキャプチャ方式を2020年に開発している。同方式の登場によって、液体全体の流れを限られた観測データからリアルタイムに再現する手法開発の道が開けたとする。
そして今回研究チームは、深層強化学習によって、少数の限られた実観測データをもとに流体全体の動きをリアルタイムで計算し再現する、新しい流体シミュレーションの方法を開発したとしている。 水を張った水槽を、手または手で持った物体でランダムに撹拌している状況を想定した場合、研究チームが開発した方式では、水面に3次元モーションキャプチャセンサを組み込んだブイを浮かべることで、その3次元的な動きをリアルタイムで計測できる。そして今回の提案手法では、これらのブイの動きを用いたシミュレーションによって、撹拌している物体の形状や動きが未知である場合でも、水の流れを3次元でリアルタイム再現することが可能だという。
同提案手法では、まず静止した液体の状態から、ブイの運動データに基づいて液体に作用する力を生成することにより、水の流れを再現する。その力の算出においては、さまざまな外乱が存在する液体の流れのデータセットをもとに深層強化学習で学習しておき、その結果から適切な力を探索して実行する。研究チームは、充分な量の学習を経ることで、学習データにない外乱に対しても、流れの高精度な再現ができるようになるとする。
今回開発されたシミュレーション手法により、目前の実際の水の動きを、ランダムな外乱が加えられた場合でも、正確かつリアルタイムでサイバー空間上に再現することが可能となる。研究チームはその応用先として、防災(治水)や建設工事などのために遠隔地同士での水流の直感的なデータが共有できたり、水をコントローラとした新たなゲームの開発につながったりと、水を感じながらバーチャル環境でコンテンツを利用することがようになるとしている。