銀行の自然言語処理活用に立ちはだかる2つの障壁
われわれは8年ほど前、北米の大手銀行の初めての顧客対応チャットボットの大規模開発に携わっていました。 このチャットボットで目指していたのは、基本的な口座に関する質問に答えるだけでなく、最終的には金融アドバイスを提供することでした。
このソリューションの自然言語処理の要素は理論的には簡単に実装できるはずでしたが、2つの大きな障壁がありました。
1つ目の障壁は、顧客の口座情報(具体的には取引データ)が異なる形式でレガシーシステムに分散しており、統合された顧客プロファイルがなかったことです。2つ目の障壁は、当初使用する予定だったAIエンジンでは、1つの会話から次の会話へと文脈を引き継ぐことができなかったことでした。
これらは多くの銀行がいまだに苦労しているジレンマです。
銀行には顧客情報が豊富にあり、ある提供チャネル内での顧客対応は比較的効率よく対応できるものの、その顧客が別のチャネルに移ると、前のチャンネルでの経験が引き継がれず崩れてしまうという問題があります。
データはAIアルゴリズムで活用可能なフォーマットに保存されていないことが多く、サイロ化されたレガシーシステムに分散しているため、顧客の他のチャネルにおける行動履歴を共有できないのです。
しかし現在、われわれはあらゆる種類のデータをクラウド上に保管し、銀行に新たな可能性を提供しています。
生成AIやGPTを利用する際の課題を解決
近年のChatGPTの台頭により、チャットボットがどれほど洗練されたかに加え、人間とデジタルの間の至るところで顧客体験がどのように強化され、カスタマイズできるかが明らかになりました。
GPTには、人間的な触れ合いや人間の関わりとバランスを取りながら、データ駆動の接客対話の重要な役割を担うポテンシャルがあります。ChatGPTの応答の質やスピード、そして深さに驚く人も多いです。また業界の評論家は、ChatGPTが今後のカスタマーエンゲージメントや検索エンジンにどんな役割や影響を及ぼしていくことになるのだろうかと思いを巡らすようになりました。
しかしながら、公的に入手可能なOpenAIのLLM(大規模言語モデル)であるGPTをクライアントに向けて使用するには課題があります。 まず、GPTが持つ情報は、現状では2021年9月までという制約があります。
そこで、われわれはAzure OpenAIに(OpenAI GPT-4のような)データモデルのインスタンスを作成し、クライアントのデータを、そのモデルにロードした上で修正します。その後、その安全性や分離性、そして保全性を確認します。それが終了した後、クライアントが自身のデータでそのモデルをトレーニングすることを支援します(GPT-4は、そのようなモデルがより速くトレーニングできることを実証しています)。
これにより例えば、リアルタイムで不正インスタンスを特定することが可能になります。クライアントがデータを微調整し、人間からの強化学習を行うことで、価値を実現するまでの時間が大幅に短縮されるようになります。
これらの進歩とニューラルネットワークの進歩によって、過去2~3年間あまりうまくいっていなかったAIの活用(ボットが間違った回答を出すなど)が改善されていくことになるでしょう。Azure OpenAI(アメリカとヨーロッパで利用可能)ならば、Q&A Markerでの85%の正答率に対し、最大99%の回答精度を提供できます。
銀行が生成AIを有効活用するために知っておくべきこと
生成AIやLLMが抱える課題を整理できたところで、銀行がこれらを活用するために知っておくべきことを説明しましょう。
潜在的な可能性を優先する
銀行がGPT-4をビジネスに活用できるケースは、オペレーションやEX(従業員体験)、そしてCX(顧客体験)を含む、顧客により近い分野に数多く存在します。
例えば、新規口座開設のインセンティブを最大限に引き出すチャットボットがあれば、だれもが利用したいと思うでしょう。すぐに価値を提供できる領域に注力しましょう。
限界・制約を理解する
AIの応答に対する一貫性やバイアス(偏り)の課題は、いまだに存在します。AIツールは90%の精度が求められるところでは有用ですが、それ以上の精度を求める場合は注意が必要です。だからこそ、人間による仕事が必要なのです(これがいまだに人間が飛行機を操縦し、車を運転している理由です)。
AIソリューションは、そのトレーニングに使用したデータ以上のものになることはないのです。AIは、人間の「創造力」や「直観」、「共感」の代わりはできません。しかしAIは、人間の活動を強化したり、より効率的にタスクを遂行したりする支援ができます。
データをモダナイズする
データをAI導入に適した形に整備しましょう。データは通常、銀行内でさまざまなフォーマットで、異なる部門ごと(サイロ化)に分断されて管理されており、本当に必要としている人たちが容易に見つられないことが多いです。
RPAや機械学習といった領域でプロジェクトを完了し、クラウド上にデータを保有している銀行であれば、AIサービスを利用してデータを活用する準備ができていると言えるでしょう。
またより興味深いのは、GPT-4とDall-E 2(実質的なビジュアルAI。テキストから画像生成したり、視覚的な情報を処理したりするAI)が広告やWebデザイン、コミュニケーションなどの領域で一緒に利用される場合でしょう。
この分野の急速に変化する市場動向を考えると、銀行は迅速に価値を提供でき、かつ、テクノロジーの範囲で有効なユースケースに優先順位を付けるとともに、クラウドへの移行や業務全体での効果的なデータ再構築を通じて、生成AIを最大活用する準備をするべきです。まさに、私たちは今「『AIファースト』な世界の誕生を目にしている」と強く感じています。
ちなみに、われわれの顧客である北米の大手銀行は無事にチャットボットサービスを立ち上げました。サービス開始からかなり使われており、相当数の顧客を自社Webサイトへ取り戻すことに成功しました。
私たちは今、生成AIを活用して新たな業界標準を築き上げる大きなチャンスを目の前にしています。今ならその障壁は低く、ビジネス機会や可能性はとても高いです。