国立天文台(NAOJ)は9月14日、野辺山45m電波望遠鏡およびフランスのNOEMA電波干渉計を用いて、オリオン座の星形成領域「NGC 2024」に対する分子輝線の詳細観測を行った結果、「フィラメント」(円柱状の細長い構造)の内部のガスの動きから、それが分裂することで、将来的に星を生むもととなるコア(ガスの塊)を形成していることを観測から明らかにしたと発表した。
同成果は、九州共立大学の島尻芳人教授が率いる国際共同研究チームによるもの。詳細は、欧州の天体物理学全般を扱う学術誌「Astronomy & Astrophysics」に掲載された。
欧州宇宙機関(ESA)の「ハーシェル宇宙赤外線望遠鏡」(2009年~2013年運用)により、太陽系から1500光年以内にある星形成領域が詳しく観測された結果、フィラメントがいくつも発見されたという。さらに、星のもとになる高密度ガスのコアの大半が、フィラメントに埋もれていることも解明された。そのため、フィラメントがどのように形成され、そこからどのようにしてコアが生まれるのかを解明することは、星が誕生する仕組みや、太陽系の形成に関する研究を進展させる上で重要な課題となっている。
これまでのフィラメントに関する観測は、赤外線により行われてきた。赤外線では、フィラメントやコアなどの形状を広く詳細に調べることが可能だ。しかし、フィラメントの周囲や内部の運動に関する情報を得ることができず、そこからどのようにしてコアが形成されるかは解明できていなかったとする。
そこで研究チームは今回、野辺山45m電波望遠鏡とNOEMA電波干渉計を用いて、オリオン座の星形成領域NGC 2024に対し、ガスの運動を調べることが可能な分子輝線を詳しく観測したとする。また、ハーシェル宇宙赤外線望遠鏡やチリ・アタカマ砂漠の電波望遠鏡「APEX電波望遠鏡」から得られたデータも利用したという。
そして、それらの観測データを詳細に分析したところ、フィラメントが分裂してコアができていることが判明。分子輝線は、分子の種類により詳細に調べることができるガスの密度が異なるという特徴を持つ。そこで、野辺山45m電波望遠鏡の同時に複数の分子輝線の観測を高い速度分解能で得ることができる特長を最大限に活かし、さまざまな分子輝線の観測データを取得したとする。
その結果、100cm-3~10万cm-3と3桁の幅広い密度域のガスの運動を調べることに成功したとのこと。そのガスの運動と広がりを詳しく調べたところ、ガスがフィラメント中に埋もれたそれぞれのコアに向かって動いていることが確認された。研究チームによると、これはフィラメントが分裂してコアが形成されている可能性を示しているという。
さらに、分裂中のフィラメントと分裂していないフィラメントの単純なモデルを作り、今回の観測結果との詳細な比較を行った結果、観測されたフィラメント内部のガスの動きは、分裂中のフィラメントと似た特徴を持っていることがわかり、フィラメントが分裂していると解釈して良いことが確かめられたとする。大部分の星は、このようなフィラメントを介して誕生することが明らかにされていることから、今回の研究成果は、星の誕生メカニズムを解明する上で重要な手がかりになるとした。
フィラメントの研究において、その太さは、理論研究との比較からその形成機構の解明につながるため、重要なポイントだという。これまでのところ、連続波による観測からその太さが0.3光年で一定とする説と、さまざま分子輝線による観測から太さは一定でないとする説があり、結論が出ていない状況だという。
しかし今回、野辺山45m電波望遠鏡を使って、違う種類の分子輝線データで同じフィラメントの太さを計測したところ、観測している星間ガスの密度によって結果が違うことが判明。さらに、連続波のデータから測定された太さは0.3光年だった。この発見は、「連続波データによる測定結果は太さが0.3光年であり、分子輝線データによる測定結果は太さが0.3光年でない」という、10年間続く論争と一致していたのである。この論争を決着させるためには、フィラメントの太さが一定かどうかを確定するためには、同じ種類のデータを使って、いろいろなフィラメントの太さを測る必要があるとする。
今回の研究で確立された解析手法は、多様な星が生まれる場所の観測データにも使えるという。研究チームは今後、軽い星ができる場所から重い星ができる場所まで、さまざまな星が生まれる場所を野辺山45m電波望遠鏡で観測し、同じような解析をすることで、フィラメントからコアへの分裂がどのくらい一般的に起こっているかを調べたいと考えているとしている。