京都大学(京大)は9月13日、生成系AI「ChatGPT 4」と仏教を掛け合わせた新型チャットボット「親鸞(しんらん)ボット」と「世親(せしん)ボット」を開発し、発表済みの「(旧)ブッダボット」および「ブッダボットプラス」に続いて、仏教対話AIの多様化に成功したことを発表した。
それと同時に、両ボットの拡張現実(AR)技術も開発し、宗教史を代表する仏教聖人ボットとのテキスト対話のみならず、視覚や聴覚を用いたマルチモーダル(多感覚的)なコミュニケーションもできるようになったことも併せて発表された。
同成果は、京大 人と社会の未来研究院の熊谷誠慈准教授、同・亀山隆彦研究員、熊谷准教授が立ち上げたスタートアップであるテラバースの古屋俊和CEO、同・木内敢ジュニアリサーチフェローらの共同研究チームによるもの。
AIの宗教界への応用として、京大とテラバースが2021年3月に発表したのが、Google提供のアルゴリズム「Sentence BERT」を応用したチャットボット「(旧)ブッダボット」だった。ただし、「(旧)ブッダボット」は、投げかけられた問いに応じて仏教経典の文言をそのまま提出するというもので、OpenAIから発表された生成系AI「ChatGPT」が実現したような、自然な対話を自動生成することはできていなかった。そこで研究チームは、「ChatGPT 4」を応用した新型チャットボットの開発を進め、2023年7月生成系仏教対話AI「ブッダボットプラス」を完成させた。
さらに「ブッダボットプラス」の構造を基盤に、今回新たに開発されたのが2種類の仏教チャットボットで、浄土真宗の開祖である親鸞(12~13世紀)の名を冠した「親鸞ボット」と、仏教哲学「唯識」を大成した菩薩(ぼさつ)である世親(4世紀)の名を冠した「世親ボット」だ。どちらも仏教聖典を機械学習済みで、人々のさまざまな悩みに宗教的観点から回答してくれる仏教対話AIとなっているという。
「(旧)ブッダボット」と「ブッダボットプラス」は、機械学習用のデータとして、「スッタニパータ」や「ダンマパダ」などの原始経典をもとにしたQ&Aリストが作成された上で開発が行われた。データ作成時には原典であるパーリ語の文法と文意をできるだけ損なわないようにすべく、複数のインド仏教学者によるデータのクロスチェックなどに膨大な時間を要したという。
そこで今回は「ChatGPT 4」を応用し、経典や著作のテキストデータをQ&A形式にすることなくそのままの形で機械学習させることで、データの作成速度を飛躍的に高めることに成功したとする。
その結果、「スッタニパータ」などの初期経典を機械学習させているブッダボットが平易な仏教的回答が特徴的であるのに対し、「正信偈」を機械学習させた「親鸞ボット」は浄土信仰的な回答が、「倶舎論」を機械学習させた「世親ボット」は仏教哲学的な回答が出力されるようになったとする。このように、ブッダ以外の高僧や菩薩の対話型AIも開発することが可能になったとした。
生成系AIならではの仏教思想に関する新しい解釈が提出され、これまでにない仏教哲学的解釈を創出できる学術的価値の可能性があるという。また、古代の宗教文献の現代的価値の分析や新たな解釈、哲学の創出なども可能になるとした。それに加え、今回の技術を応用することで、産業的価値の生成・提供などの可能性も考えられるとしている。
一方で、ChatGPTには情報の典拠が不明だったり、個人情報の流出や著作権の侵害など、情報の信頼性に関わる課題が山積しており、イタリアがChatGPTの使用を一時禁止したり、米国の産業界から開発延期の提言がなされるなど危険性についても指摘されている。しかし今回は、原典を機械学習していることから情報ソースの問題はないとした。
また、両ボットの国際展開として、他国の仏教界から共同開発の打診も届いているという。今後、国ごとの仏教宗派の文献を学習させて、その国に応じた仏教チャットボットを製作する可能性もあるとした。すでに、ブータン王国とは共同開発に向けた協議を進めている最中としている。
なお研究チームは、現状で仏教以外の宗教への転用は考えていないという。宗教によっては紛争を引き起こす可能性もあるので、当該宗教の有識者たちの意見をしっかりと尊重することが必要であり、ほかの宗教への安易な技術転用は避けるべきと考えているとした。このようなELSI(倫理的・法的・社会的課題)を踏まえた上で、今後さらに、人類史を代表する哲人や聖者たちの対話AIを順次開発し、デジタル空間上に豊かな伝統知を再現していく予定としている。