パナソニックホールディングスは、2023年9月13日~14日の2日間、大阪府門真市のPanasonic XC KADOMAにおいて、同社技術部門の研究開発成果を公開する「Panasonic Corporate R&D Technology Forum 2023」を開催する。パナソニックグループが掲げる「地球環境問題の解決」と「一人ひとりの生涯にわたる健康・安全・快適」の共通戦略をもとに、26のテーマにわけた展示を行う。
また、同フォーラムの開催にあわせて、パナソニックホールディングス 執行役員 グループCTOの小川立夫氏が、技術部門における中長期の重点戦略についても説明。小川グループCTOは、「物と心が共に豊かな理想の社会の実現に向けて、新たな事業機会創出と競争力強化を支援するのが技術部門の役割になる」と発言し、技術部門の基本戦略などについて語った。
なお、パナソニックグループが持つ特許技術にアクセスできる「技術インデックス」を、2023年9月12日から社外に公開したことも発表した。数万件の特許情報にアクセスでき、社外との共創を加速するプラットフォームのひとつに捉えている。
パナソニックホールディングスの技術部門では、「地球環境問題の解決」をGX(Green Transformation)の取り組みと位置づける一方で、「一人ひとりの生涯にわたる健康・安全・快適」を、くらしに向けた活動として捉え、CPS(Cyber Physical System)の観点から取り組む姿勢をみせている。
1つめのGXでは、2050年に3億トン以上の削減インパクトを目指す長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」を推進するために、スコープ1、2、3の削減貢献量の拡大を目指すカーボンニュートラルと、循環経済に対応した事業変革を進めるサーキュラーエコノミーへの取り組みをあげる。
特に、カーボンニュートラルにおいては、再エネ活用、需給バランス調整の領域を中心に、技術開発の強化を進め、社会のクリーンエネルギーへの転換を加速させるという。
さらに、サーキュラーエコノミーの取り組みについても言及。「設計、製造した製品を使ってもらい、それをリサイクルするマニュファクチュアリングループと、シェアリングやリペア、リファービッシュによるサービスループを回すことで、電機業界におけるサーキュラーエコノミーの第一歩が踏み出せる。その外には自然環境を含めたネイチャーループがあり、こことのやりとりをうまく行うことが、製品、製造、サービス、デザインによる循環経済の実現つながる」と述べた。
また、生物多様性の喪失が大きなリスクとして顕在化するなかで、ネイチャーポジティブへの取り組みも重要であると位置づけ、「マテリアリティを明確にし、技術で貢献できることを先行して模索していくことになる」と述べた。
もう1つのCPSでは、多様な顧客とのアナログな接点をデジタル化し、最適なものへと変える取り組みに注力していることを強調。センサーを活用して、人やくらしをセンシングし、人や物体の動きを特定するとともに、建物のなかの家電、照明、空調の動き、温度や湿度、気流、音などを分析してダイナミックマップとして可視化。クルマ空間やオフィス空間、家の空間に関する各種ソリューションの提供を行うほか、AIを活用して最適な環境の実現につなげることができるという。
「今後、重要になるのがAIである。わずかなデータで導入でき、簡単に実装することで、あらゆるお客様に、素早くお届けするScalable AIと、人間中心の活用を実現するAI倫理とAI品質保証によって、あらゆるお客様の信頼に応えるResponsible AIにより、責任あるAIの活用を加速する。また、先端AIに精通した少数精鋭の人材を育成しており、新たな画像認識AIは、ICCV2023に論文採択された。少ないデータで、短時間での学習が行える画像認識AIである」と説明した。
なお、GXおよびCPS領域への研究開発投資比率は、2022年度には44.8%だったものを、2023年度には65.9%にまで拡大。2024年度は70%にまで引き上げる計画を示している。
また、知的財産戦略についても言及。保有している無形資産を価値に変える共創を推進する知財起点のオープンイノベーション活動に取り組んでいることに触れた。すでに、パナソニックグループが持つストレッチャブル基盤技術や、イメージングデバイス画像処理ソフトウェアを活用した製品が他社から発売されている。
また、9月12日からは、知財情報を検索できる「技術インデックス」を社外に公開。技術分類やキーワード検索により、目的とする特許技術に容易にアクセスできるようにした。
2022年度から社内で活用しているサービスをベースにしたもので、その一部となる数万件の情報を公開。まずは環境技術とウェルビーイング技術の2領域が対象になる。
「サーキュラーエコノミー1つを捉えても、バリューチェーン全体をパナソニックグループだけではカバーできない。秘密主義ではなく、早い段階からいいパートナーと一緒に仕事をすることが大切であり、共創の確率を高めることができる。やってみなくてはわからない部分も多いが、技術インデックスの公開は、そこにトライしていくことになる」と語った。
パナソニックホールディングスの技術部門では、毎年9月に、グループ内の経営トップや関係者などを対象に、研究開発中の最新技術や成果などを紹介してきた経緯があるが、今回のPanasonic Corporate R&D Technology Forumは、これらの内容を社外にも公開することを目的に開催した。
小川グループCTOは、「GXや、くらしやコミュニティの領域では、1社の技術だけでは完結しない。共創パートナーづくりのきっかけや、事業化に向けた意見をいただく場にしたいと考えた。様々なステークホルダーとともに、共創イノベーションの加速を図るイベントにしたい」と語った。
パナソニックホールディングスのなかにある、テクノロジー本部や事業開発室、マニュファクチャリングイノベーション本部、プロダクト解析センター、パナソニックアドバンストテクノロジー、技術企画室が取り組んでいる成果などを展示している。
展示会のコンセプトは、「未来のきざしと、私たちがお届けしたいお客様価値」とし、「地球環境問題の解決」と「一人ひとりの生涯にわたる健康・安全・快適」の両面から展示を行っている。
「地球環境問題の解決」では、カーボンニュートラルの切り口から、自然エネルギーの利活用、エネルギー利用効率、区域内調達・利用の最適化に関する展示を行い、サーキュラーエコノミーでは、環境影響の最小化に向けた取り組みと、新素材活用・長期利用に関して展示した。また、「一人ひとりの生涯にわたる健康・安全・快適」では、心身の健康サポートや空間の用途別最適化、自動化に新たな産業や経済を創出、AIによる新たな社会の実現、安心・安全な社会を下支えするという切り口での展示が行われた。
具体的には、以下の26テーマが展示されている。
- ペロブスカイト太陽電池
- 高効率グリーン水素製造のための高活性電極
- セルロースエコマテリアル「kinari」
- 植物の成長を加速させるバイオCO2変換
- 様々なシーンで活躍する業務支援ロボットソリューション
- 自律移動ロボット向けソフトウェアパッケージ「@mobi」
- 電力供給が不要な超シンプルな水素製造装置
- 安心・安全に超急速上殿ができる高入出力型全固体電池
- 窒化ガリウム(GaN)低損失パワー半導体技術
- 現場CPS化技術
- 分散型エネルギーリソース制御による脱炭素ソリューション
- 継続的に進化するプライベート5Gエッジソリューション
- AI+ロボットによる自動分解システム
- くらしの選択基準を変える脱炭素ライフスタイル
- 日々の健康スコアによるデータドリブン自立支援
- 介護予防システム、表情分析によるUXマネジメント
- 目視を超越するハイパースペクトルセンシング
- 匠の技をデータ化・継承する加工CPS
- 有線・無線のハイブリッド通信技術「Nessum」(旧HD-PLC)
- 空間伝送型ワイヤレス電力伝送システム
- 生成AI基盤モデルとAI倫理
- 家電のトラブルを未然に予知するAI技術
- IoTサイバーセキュリティ監視システム
- IoT Threat Intelligence
- 知財情報に基づいた技術インデックス
- 標準化推進による社外共創・ルール作り活動
ペロブスカイト太陽電池は、街やくらしに調和する「発電するガラス」の実現に向けて、世界最高レベルの発電効率を有する材料を武器に、積極的なパートナー連携を進めている技術だ。先ごろ、神奈川県藤沢市のFujisawaサスティナブル・スマートタウンのモデルハウスのバルコニーに設置し、実証実験を開始した。
「ディスプレイ開発で培ってきたインクジェット技術を活用し、建材用ガラスの上に高精度に、高性能なペロブスカイト層を形成し、あらゆる建物の窓や壁面で利用できる『発電するガラス』になる。様々なサイズが可能であり、用途を拡大できる。街の至るところの壁で創エネができ、街全体や社会全体でのカーボンニュートラルを加速できる」と述べた。
高効率グリーン水素製造のための高活性電極は、課題となっている水素のコストや供給力の課題を解決することになる。
「プロトン交換膜(PEM)によるMWレベルの電解装置が導入されているが、そこで使用されるイリジウムは、高価で、資源の制約がある。安価で、効率よく水素を作る方法として、パナソニックグループが燃料電池で培ってきた材料やプロセス技術を水電解に応用することで、ニッケルや鉄から、微細な層状複水酸化物を生成し、アルカリ水電解用陽極やアニオン交換膜型水電解用MEAとして使用する方法を実験している。PEM型比べて、面積効率は3倍になる。水素の実用化に貢献できる」と位置づけた。2年以内にエンジニアサンプルを出荷する計画だという。
kinariは、植物繊維であるセルロースを55%~85%まで含有することで石油由来による樹脂を減らし、さらに再生が可能であるという特徴がある。同社のスティック掃除機に採用しているほか、2022年度から外販を始めており、アサヒビールとの協業では「森のタンブラー」の名称でタンブラーを製品化。ビールの泡立ちがいいという。京都府福知山市の小中学校23校では、市内から出た間伐材のセルロールを使用した給食食器を作り、2023年9月から使用しているという。
バイオCO2変換は、ネイチャーポジティブの取り組みのひとつと位置づけ、空気中のCO2から合成した植物成長促進剤により、葉の上に散布するだけで、農産物の生産力向上を実現。ほうれん草の栽培では、収穫量が約40%増加するという結果が出ている。これにより、持続可能な食糧生産に貢献。空気中のCO2の回収にも効果があるという。
「全国13カ所で実証実験を行っているが、ナスや豆、トマトをはじめとした葉物野菜には大きな効果があるものの、根菜類や花卉、お茶には効果がないようだ。効果がある領域に使ってもらうことで、食糧生産への貢献とCO2の削減を両立したい」と語った。
パナソニックグループが2022年4月からスタートした事業会社制により、パナソニックホールディングスの技術開発部門は、個々の事業会社の手が及ばない領域を後押しし、グループ横断的に活用できる技術などを担当。全体技術のマネジメントやグループの現場力強化などに貢献する役割を担う。
「技術や生産技術を『技術のダム』として貯める開発と、それを武器としてイノベーション創出につなげ、事業活動への貢献が役割となる。また、技術面から、事業会社同士の間を横につなぐ仲介役も担う」とした。
競争力の源泉となるコア技術群として、
- 機械材料・材料インフォマティクス
- パワーエレクトロニクス
- 水素エネルギーデバイス・DERMS
- CPS・AI
- 画像センシング・ロボティクス
- シミュレーション・モデルベース開発
- 生体・感情認識・バイオ
- ソフトウェア・通信・セキュリティ
の8つの項目をあげ、事業会社のCTOおよび技術部門と連携して、技術ロードマップを策定し、最適な投資や人材育成を行っていくという。
さらに、パナソニックグループでは、「CO2削減貢献量」の価値を、国際的に認知してもらうための活動を推進していることを示し、技術部門はこの活動の中心的役割を果たすことになるとした。
一方、パナソニックホールディングスでは、2025年春に、西門真に最先端ラボを竣工する予定を公表しており、これをR&Dおよびオープンイノベーションの総本山と位置づけた。
「西門真の地は、1933年に、旧松下電器産業の第二の創業の地として移転してきた由緒正しいの歴史ある場所だ。パナソニックグループとして、新たなR&D拠点を建てるのは30年ぶりになる。地上8階建ての建物に、先進AI技術から、モノづくり革新までを統合する。研究開発と生産技術が1つの建屋に入るのは初めてのことになる。外の人たちにも来てもらえる拠点にしたい」とし、「将来の変化に追従できるフレキシビリティ、成長を促し、知的生産性を上げるクリエイティビティ、人にも、環境にもやさしく働くことができるサステナビリティを持ち合わせた拠点として、この先100年も、ずっと最先端なラボであることを目指すのがコンセプトである」と位置づけた。