東京大学(東大)は9月12日、垂直方向の圧力と剪断(せんだん)応力の分布を同時に検知可能な「光学式フレキシブル圧力センサシート」の開発に成功したことを発表した。

同成果は、東大大学院 工学系研究科のHaoyang Wang大学院生、同・李成薫講師、同・横田知之准教授、同・染谷隆夫教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国科学振興協会が刊行する「Science」系のオープンアクセスジャーナル「Science Advances」に掲載された。

剪断応力とは、面と平行方向の力をかけたときにその面にすべらせるように作用する応力のことをいう。これまでの圧力センサの多くは垂直方向の圧力のみで、その剪断応力を検知できるものは少なかったとする。垂直方向と剪断応力の両方を検知できるようになることで、ロボティクスやヒューマンマシンインタフェース、神経工学、ヘルスケアなど、幅広い分野への応用が期待されるとする。

このような3軸方向が検知可能な圧力センサの中で特に注目されているのが、多点での計測、高空間分解能、高耐久性などの利点を備えた「光学式圧力センサ」だ。ただし従来の光学式圧力センシングシステムは複雑な光学系を必要とするため、素子自体が固くデバイスが厚いことから、柔らかい対象や曲面などへの実装が難しいという課題を抱えていた。

そこで研究チームは今回、フレキシブル面光源、フレキシブル感圧ゴムシート、フレキシブルイメージャーの3層を積層することで、垂直方向の圧力と剪断応力の分布を同時に検知可能な光学式フレキシブル圧力センサシートの開発を試みることにしたという。

  • 光学式フレキシブル圧力センサシートの構造図

    光学式フレキシブル圧力センサシートの構造図(出所:東大プレスリリースPDF)

今回の圧力センサシートは、面光源から出た光が感圧ゴムシート内を通過した後にフレキシブルイメージャーで光の強度分布が検出される仕組みだ。フレキシブル面光源には「ポリジメチルシロキサン」(PDMS)が「光導波路」として用いられており、その表面に酸化チタンナノ粒子を分散させた拡散層、および銀を反射層として成膜することで均一な面光源が実現されている。なお光導波路とは、物質の光学特性の違いを利用して、光が伝搬するような光の伝送路のことをいう。

圧力センサシートは、圧力が加わることで光強度分布が変化し、その光強度分布から垂直方向の圧力と剪断応力の分布を計算することが可能だ。また、フレキシブル感圧ゴムシートとして厚さ0.8mmの多孔質なPDMSシートが用いられており、それによってセンサ感度の向上が実現したとする。

今回の圧力センサシートでは、垂直方向の圧力に対して最小で1キロパスカル(kPa)、最大で360kPaまでの圧力を検知することに成功したという。また、剪断応力に関しても最小で0.6kPa、最大で100kPaの圧力まで検知することに成功したとする。さらに、5mmの格子状に配置した6×8のセンサアレイを用いることで、垂直方向の圧力と剪断応力の圧力分布を同時に計測できることが実証された。

  • 垂直方向の圧力と剪断応力の分布の同時計測

    垂直方向の圧力と剪断応力の分布の同時計測(出所:東大プレスリリースPDF)

今回開発された光学式フレキシブル圧力センサシートは、垂直方向の圧力と剪断応力の圧力分布を同時に計測することが可能だ。同シートはフレキシブルで曲面への実装が可能であるため、今後ロボットアームへの実装といった電子皮膚への応用のほか、手すりに実装することで病院などでの歩行中に手すりにかかる力具合を定量的に評価するなど、リハビリやヘルスケア方面での活用も期待されるとした。