東京医科歯科大学(TMDU)は9月6日、高齢者の人々が家庭で日常的に行う歯磨きが、肺炎予防に効果を発揮することを明らかにしたと発表した。
同研究成果は、TMDU大学院 医歯学総合研究科 健康推進歯学分野の相田潤教授、同・井上裕子特任研究員に加え、東北大学、新潟大学、JAGES(日本老年学評価研究)グループの研究者も参加した共同研究チームによるもの。詳細は、国際科学誌「The Journals of Gerontology Series A」に掲載された。
これまで、病院や施設で行われる医療職種や介護職種による専門的な口腔ケアと肺炎発症の関連については研究が行われてきた。だが一方で、だれもが家庭で行う日常的なセルフケアである歯磨きの肺炎予防効果は、未だ明らかではなかったという。また、肺炎球菌ワクチン接種の有無により肺炎に対する免疫力が変わるため、それが歯磨きの効果に影響を与える可能性もあるものの、そうした観点を考慮して検討した研究はほとんど見られなかったとする。
そこで研究チームは、要介護認定を受けていない高齢者を対象に、肺炎球菌ワクチン接種の経験を考慮して、日常的な歯磨きと過去1年間の肺炎経験との関係を明らかにすることを目指し、研究を開始したという。
今回の研究では、2016年のJAGESのデータを用い、歯磨き回数と過去1年間の肺炎経験との関連を、過去5年以内の肺炎球菌ワクチンの接種によって層別化し、バイアスを低減した状態で、機械学習による分析を行ったとのこと。調整変数としては、質問紙調査で収集された性別・年齢・教育歴・等価年収・脳卒中の既往歴・口腔内の健康状態・喫煙状況のデータが用いられた。
また解析対象は、65歳以上の要介護認定を受けていない高齢者1万7217人(平均年齢73.4±5.8歳、男性46.1%)で、そのうち過去5年以内に肺炎球菌のワクチン接種を受けた人は43.4%だったとする。加えて、対象者全体のうち4.5%が過去1年間に肺炎を経験し、ワクチン接種群で4.6%、非ワクチン群では4.5%が肺炎を経験していたとのことだ。
調査の結果、歯磨きが1日に1回以下の人の場合、肺炎を経験した割合は、ワクチン接種群で4.5%、非接種群では5.3%だった。そして機械学習を用いた分析により、ワクチン未接種群において、歯磨きが1日1回以下の群では、1日3回以上の群と比較して、肺炎経験を有するオッズが1.57倍(95%信頼区間:1.15-2.14)であることがわかったとする。その一方で、ワクチン接種群では、歯磨きの回数と肺炎経験との間に有意な関係は見られなかったという。
このことから研究チームは、ワクチン未接種の免疫力が低い高齢者では、口腔内細菌で肺炎を起こす可能性があるため、日常的な歯磨きの回数が多い場合に肺炎予防の効果が認められる可能性が示唆されたとする。ただしこの結果は、歯磨きをすれば肺炎球菌ワクチンを接種する必要がないということを意味するものではなく、ワクチンを接種したうえで歯磨きもおこなうことが、肺炎や歯科疾患の予防に重要だとしている。