総合研究大学院大学(総研大)は9月7日、発達段階(サイズ)の異なる沖縄県産「ミヤコヒキガエル」のオタマジャクシを用いて、オタマジャクシが群れる際に仲間の「数が多い方」を好むのか、あるいは「サイズが近い方」を好むのかについて調べた結果、発達段階初期では数を重視することが判明したと発表した。
同成果は、総研大 統合進化科学研究センターの長谷和子客員研究員(現・東北大学大学院 生命科学研究科 生態発生適応科学専攻 統合生態研究室・助教(研究特任))によるもの。詳細は、進化の枠組みにおける人間を含む動物の認知に関する全般を扱う学術誌「Animal Cognition」に掲載された。
オタマジャクシは、捕食者から逃れるために群れを作る性質があり、その傾向は発達段階初期の小さな個体で特に顕著だ。先行研究から、オタマジャクシは血縁とサイズを認識できることが判明しているが、仲間の数(量)を識別しているのかどうかは不明だったという。このように比較して数量の大小を判断するなどの数量認識は、昆虫、哺乳類、鳥類、霊長類などで報告があり、何らかの適応的意義があると考えられている。
もし、オタマジャクシも数量をある程度認識できるなら、群れの形成と関係している可能性があるとする。そこで長谷客員研究員は今回、繁殖期が9月~3月と半年も続くことから池の中には卵塊から多様な発達段階まで混在しているミヤコヒキガエルのオタマジャクシを用いて、オタマジャクシが数量を認識できるのかどうか、検証を試みたという。
今回の研究では、2022年11月および12月に、南大東島に人為移入されたミヤコヒキガエルの繁殖調査にて、2か所のため池からさまざまな発達段階のオタマジャクシ80個体を集め、小中大の3グループに分類したとする(小(S):体長平均15.5±1.7mm、中(M):体長平均28.6±2.7mm、大:体長平均36.5±1.5mm)。この3グループを用いて、オタマジャクシが群れる際に、同種の「数量の大小(仲間の数の多い・少ない)」と「サイズの大小(体の大きさが自分に近い・遠い)」のどちらを重視しているのか(または両方重要なのか)を検証するため、2タイプの選択テストが実施された。
1つ目は、オタマジャクシが数量を識別しているのかを調べることを目的とした「4vs1テスト」だ。このテストでは、多い方を好むのであれば、4個体いる側により長く滞在すると予測された(少ない側は1固体)。なお先行研究で、オタマジャクシは嗅覚で仲間を識別することが確認されていたことから、同テストでは嗅覚での識別か否かを判断するため、SとMサイズの刺激固体を用いた2種類のテストが用意された(体の大きい個体の方がニオイが強いと考えられるため)。
さらに、もし同テストで4個体いる側への選好性が観察されても、SサイズよりMサイズへの滞在時間が長い場合、数量を識別したのではなく嗅覚に頼っただけである可能性が排除できなくなることから、2つ目として、サイズへの選好性を調べるための「SvsMテスト」が用意された。多様なサイズの同種個体と混在するオタマジャクシでは、種内競争を緩和するためサイズの近い相手と群れる、あるいはサイズの大きい相手を避ける、といった行動が見られることが知られている。
なおどちらのテストも、水槽の中央に入れた試験個体を80分間ビデオ撮影し、トラッキングソフトにより個体の位置情報を取得、それぞれの刺激個体側の滞在時間が算出された。
4vs1テストの結果、発達段階初期の小グループのオタマジャクシは、数の多い方への選好性が示され、個体いる側での滞在時間は、SサイズとMサイズのテスト間で差がなかったという。
そしてSvsMテストでは、小中グループともに有意差がなかったとする。ニオイを頼りに選んでいたのであれば、サイズへの選好性が出ていたはずだが、オタマジャクシはサイズ識別をしていない(サイズへの選好性がない)ことが明らかにされたのである。
長谷客員研究員はこれらの結果から、ミヤコヒキガエルは数量を認識できることが推察されるとする。この数量への選好性は、発達段階初期の小さな個体(小グループ)にのみ観察されたことから、群れ行動との関連が高いことが考えられるといい、捕食リスクが高く、群れる傾向の強い小さな個体にとって、同種のサイズ以上に数量が重要と予想されたという。
動物の数量認識の研究は、これまで主に霊長類を対象にした心理学の領域で行われてきた。群れを作る野生動物は数量をどこまで認識し、運用しているのか、同テーマの研究はまだ始まったばかりで、行動生態学的な状況での研究は進んでおらず、その適応的意義もわかっていないという。長谷客員研究員は、さらなる知見を重ね、動物の認識世界に迫っていきたいと考えているとしている。