資生堂は、「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(美の力でよりよい世界を)」の企業理念のもと、人々の肌とともに、自然環境を美しく維持する技術や製品を世界へ発信している。
今回はその中でも、7月31日・8月1日に開催されたサステナブルアクションを親子で楽しみながら学ぶ企画である「資生堂研究員と学ぼう!肌にも地球にもやさしい技術」というサマースクールにて、取り上げられたトピックスについて各担当者の方にお話を伺った。
化粧品成分の工夫によるサステナブルな技術
紫外線から肌を守ってくれる日焼け止め。同じようにみえる日焼け止めでも中身に違いがあることをご存知だろうか。その中でも今回取り上げる違いは、“水で落ちてしまうかどうか”だ。
というのも、夏場は海に遊びに出掛ける人も多いだろうが、もし落ちやすい日焼け止めを使っていた場合、日焼け止めの効果が低くなってしまうことに加え、塗った日焼け止めが海に流れ出て、海水環境に影響を及ぼす可能性があるのだとか。
日焼け止めをはじめとする化粧品成分は、人体には影響が小さくても、海の一部の生き物にとっては海水中濃度が高くなりすぎるとストレスになる可能性があることが指摘されている。つまり、海洋生態系を保全するために、場面によっては水に溶け出しにくい化粧品を使う必要があるという。そこで、資生堂は処方や成分の工夫により、水に落ちにくく日焼け止め効果を持続させ、人の肌にも地球環境にも優しい日焼け止めを提供することを目指している。
この「落ちにくい」と「肌にやさしい」は相反するように思うが、その両立のために日々研究が進められている。また、原料を資生堂独自の厳しい基準で選んで配合し、高品質かつ肌にやさしい製品づくりにつなげていると担当者は語っていた。
研究開発にあたっては、紫外線からの防御力を強めることと肌への優しさを守ること、水によって落ちにくくすることのバランスをとるのが難しいという。防御力を強くすると、肌の負担感が強くなったり、油っぽくなり心地よく使えなくなったりすることも。そのため、環境配慮とより消費者目線に立った製品づくりを今後も継続して行っていきたいとしている。
化粧品とサンゴ礁の意外な関係性
水に溶けだした際に海の一部の生き物へストレスを与える可能性がある化粧品成分。そうした影響の大きさを判断する生き物として、資生堂では特にサンゴに注目しているという。サンゴが暮らすサンゴ礁は地球全体の海面面積でいうと0.2%しか存在しないものの、全海洋生物の25%がサンゴで暮らしていると言われており、サンゴ礁に影響を与えると、海洋全体に悪い影響を与えてしまいかねないという。
サンゴはストレスがかかり弱ってくると白化していき、その状況が続くと死んでしまう。そうした背景から、サンゴを含む海洋環境をモデル化しラボレベルでの環境解析を可能にした「環境移送技術」を保有しているイノカと共同研究が進められている。
イノカの担当者は、「過去にはイノカの研究で環境移送技術を活用したサンゴと日焼け止めの影響評価実験を行い、特定の物質が高い濃度になることによりサンゴに影響が生じることが確認された。今後、日焼け止めのどの成分がどのように影響を及ぼすかなどの詳細な研究を、イノカとしては進めていきたい」と語っていた。
資生堂はこれまでにも、海洋中での紫外線防御剤の濃度分布を、産業技術総合研究所が開発した東京湾リスク評価モデルを活用しシミュレーションを行った結果と、琉球大学理学部の中村崇准教授との共同研究にて実施された紫外線防御剤のサンゴへの影響評価を組み合わせた評価を実施し、サンゴへの影響が極めて低いことを確認しているとする。
今後も共同研究を進め、より環境に配慮した製品作りを行いたいとしている。
プラスチック製容器のリサイクルプロジェクト「BeauRing(ビューリング)」
さらに、資生堂は化粧品容器の品質やデザインなどを通しても、環境に配慮した技術開発を行っており、その1つに「BeauRing(ビューリング)」という循環型プロジェクトの取り組みが進められている。
収集するものは、日焼け止めをはじめとするチューブやボトル、リップなどのプラスチック容器で、ガラスやスプレー缶を含む金属などのプラスチックではない容器は自治体によって、収集・リサイクルされていることもあるため、収集対象からは外しているとしている。
特徴は、消費者が容器の中を洗ったり、容器を分解する手間なくそのまま「BeauRing BOX(ビューリングボックス)」 へ入れるだけで良いところ。
化粧品の容器は外的なものから中身を守るために複数のプラスチックを組み合わせて作ることがあり、そのような場合リサイクルが非常に難しいが、同プロジェクトでは消費者の手間なくリサイクルを実現できるとのことだ。
容器の収集からプラスチック容器再生までの一連のスキームをプラットフォーム化できるよう今後、さらなる実証実験を進めたいと担当者は語っていた。
あらゆるサステナブルな取り組みを行っている資生堂。生活者自身がこのようなイベントを通じてサステナビリティについて考え、少しでも行動や意識が変わってくれたらとの思いを持って、今後も研究開発やイベントを行っていきたいとしている。