名古屋大学(名大)と藤田医科大学の両者は9月4日、1日1回以上の高頻度で魚肉を摂取することが、血清中のヒ素レベルを上昇させ、それが高血圧のリスク増加に寄与する可能性があることが示されたと共同で発表した。

  • 血清ヒ素濃度と高血圧有病率との関係性。

    血清ヒ素濃度と高血圧有病率との関係性。(出所:名大プレスリリースPDF)

同成果は、名大大学院 医学系研究科 環境労働衛生学分野の香川匠大学院生、同・田崎啓講師、同・加藤昌志教授、同・予防医学分野の田村高志講師、同・若井建志教授、藤田医科大 医学部衛生学の大神信孝教授、同・Tingchao He助手らの共同研究チームによるもの。詳細は、欧州心臓病学会が刊行する心臓血管医学の全般を扱うオープンアクセスジャーナル「European Heart Journal Open」に掲載された。

魚には、ビタミンやオメガ3脂肪酸(DHAやEPA)など、美容や健康を支える成分が豊富に含まれている。しかしそれと同時に、有害元素の代表的な存在であるヒ素が多く含まれていることも知られている。ただしヒ素は、人体に有害なものと無害なものがあり、長らく魚に含まれるヒ素は無害であると考えられてきた。ところが実際には、どのくらいの頻度で魚を摂取すると、どのようにそのヒ素が健康に影響するのかについては、十分には解明されていなかったとする。

そうした中、近年の動物を用いた研究から、ヒ素が血管内皮細胞に障害を与えることで、高血圧を引き起こす可能性があることがわかってきた。ただし、血管と直接作用する血清中のヒ素レベルと高血圧有病率の関係性に関して、これまでのところヒトにおける十分なエビデンスはなかったという。

実は、日本を含む先進国の一般市民は、食品の摂取を介して低濃度のヒ素にさらされている。しかし、血清中のヒ素レベルの上昇に寄与する食生活が、高血圧リスクと関連しているのかどうかは不明だった。そこで研究チームは今回、日本の一般市民を対象に、各種食品の摂取頻度、血清中のヒ素濃度、および高血圧有病率との関連を検討したという。

今回の研究では、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC研究)の第二次調査の参加者2709人が研究対象とされた。まず、血清中の総ヒ素濃度と高血圧有病率との関係性を、多変量ロジスティック回帰分析を用いて解析したところ、血清ヒ素濃度の増加に伴うオッズ比の上昇が認められたとする。

  • 食物摂取頻度と血清中ヒ素濃度との関連。

    食物摂取頻度と血清中ヒ素濃度との関連。(A)食品の摂取頻度と血清ヒ素レベルの関係性。(B)血清ヒ素レベルにおける寄与率(%)。(出所:名大プレスリリースPDF)

続いて、食事摂取頻度調査票から得られた情報を基に、6つのカテゴリに分類された食品群の摂取頻度と、血清中のヒ素レベルとの関連性が調べられた。その結果、魚介類の摂取頻度が血清中のヒ素レベル増加に最も寄与することが明らかにされたという。

  • 魚介類の摂取頻度と高血圧有病率との関連。

    魚介類の摂取頻度と高血圧有病率との関連。(A)魚介類の摂取頻度と高血圧リスクの関係性。(B)魚肉摂取における血清ヒ素レベル上昇を介した高血圧リスクの増加。(出所:名大プレスリリースPDF)

さらに、魚介類の各種品目の摂取頻度と高血圧有病率との関連性の解析を行った結果、1日1回以上の頻度で魚肉を食べる集団では、高血圧リスクが増加する可能性が示されたとのこと。また媒介分析により、高頻度の魚肉摂取が血清中のヒ素レベルを上昇させることで、高血圧のリスク増加に寄与する可能性が示されたとした。なお、ヒトで得られた知見を検証する目的で、一般に流通している魚肉に含まれるヒ素をマウスに投与したところ、血清中ヒ素濃度の増加と収縮期血圧の上昇が確認されたという。

研究チームは以上の結果により、血清中のヒ素濃度の増加が高血圧のリスク因子となることが示され、さらに、高い頻度で魚肉を摂取することが血液中のヒ素濃度の増加に潜在的に関与していることが示唆されたとする。

なお、日本人は魚介類を食す頻度の多い食文化を有するが、ヒ素濃度は他国での報告と比較して、特別に高いわけではないという。ただし、魚肉摂取は今や世界のトレンドになっているとされ、それを考慮すると、魚肉の過剰摂取による血清ヒ素濃度上昇を介した高血圧リスクの上昇は、日本以外の国でも起こりうる可能性があるとのことだ。

今回の研究により、ヒ素によって生じる健康リスクにおいて、高頻度の魚肉摂取が間接的に影響していることが示された。魚肉にはヒ素以外にも、ビタミン、ミネラル、オメガ3脂肪酸などの健康に良い栄養素が豊富に含まれている。しかし、身体に良い栄養素の効果と、ヒ素による悪影響がどのように関係しているのかはまだ解明されていない。研究チームは今後、魚肉の摂り過ぎによる健康問題のリスクを懸念しつつ、身体に良い効果が期待できる食生活について、より深く検討する必要があると考えているとしている。