順天堂大学は、「患者の意図を生体電気信号からAIで判別し、麻痺した手を思い通りに動かすAIロボット」を開発し、同ロボットを用いて脳卒中リハビリテーション治療を行うことで、従来の手法では回復が困難であるとされていた慢性期脳卒中患者の上肢運動機能が改善したことを発表した。
同成果は順天堂大学大学院医学研究科リハビリテーション医学の村上悠平 助教、補永薫 准教授、河野英美氏、春山幸志郎氏、谷真美 助手、諌山玲名 助手、高倉朋和 准教授、田沼明 准教授、羽鳥浩三 仙人准教授、和田太 准教授、藤原俊之 教授、順天堂大学保健医療学部理学療法学科の山口智史 先任准教授らの研究グループによるもの。 詳細は、米国神経リハビリテーション医学会の学会誌Neurorehabilitation and Neural Repair誌の2023年5月号で公開された。
脳卒中を発症したことにより手足の麻痺などの後遺症が残る患者のうち、手の麻痺が実用レベルまで回復するのは15%から20%ほどだと言われている。
手の麻痺が残ると日常生活の中でできる動作の範囲が狭くなり、職業復帰などを妨げる原因となることもある。近年、ロボットがリハビリテーションの分野でも応用されるようになってきたものの、多くは患者の意図に関係なく決まった動作を繰り返し行うものであったり、患者の動きをアシストするものであるため、重度な手の麻痺を回復させる効果は薄いとされてきた。
そこで研究グループは、自分では思うように手を動かせないほどの重度の麻痺がある患者でも利用できる、「患者の意図を生体電気信号からAIが判別し、麻痺した手を思い通りに動かすAIロボット」の開発をメルティンMMIと共同で進めてきたという。
このAIロボットは、麻痺した前腕に3対の電極を置き、脳から手に送られる電気信号のパターンをAIが解析することによって、手を動かせない患者であっても「指を伸ばそう」としているのか、「曲げよう」としているのか、あるいは力を入れないように「リラックスさせよう」としているのかを読み取り、患者の意図に合わせて麻痺した手を動かすことを可能としたものだという。
今回の研究には、脳卒中発症後2か月以上経過した後に手の麻痺が残存している患者20名が参加。参加者は無作為にAIロボット群と他動ロボット群に割り付けられ、AIロボット群では1回40分のAIロボットを使用して、自分の意図に合わせて指の曲げ伸ばしを行い、物を掴んだり移動させる麻痺手のトレーニングを週2回、計10回実施した。一方の、他動ロボット群では他動的に指の曲げ伸ばしを行う麻痺手のトレーニングを同様の回数を行う形で比較したところ、AIロボット群ではトレーニング後に上肢運動機能の改善が認められ、その効果はリハビリテーション終了4週後にも維持されていることが確認されたほか、日常生活での麻痺手の使用頻度においても改善が認められたという。
研究グループは、今回の実験結果を踏まえ、今までの手法では回復が困難であるとされていた脳卒中後の麻痺手の回復を可能とする新たなリハビリテーション治療法として今後の発展が期待されるとしているほか、ニューロリハビリテーションのトップランナーとして今後も世界のリハビリテーション治療をけん引して行きたいとコメントしている。なお、同AIロボットは、2022年5月18日付で日本国内のクラスII医療機器認証を取得済みであるため、今後の臨床での使用も期待されるという。