沖縄科学技術大学院大学(OIST)は9月1日、2022年1月にトンガ諸島付近で発生したフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の噴火(以下「トンガの火山噴火」)の際に発生した大気と海洋の乱れを研究し、現行の津波早期警戒システムの改善に役立つシミュレータを開発したことを発表した。

同成果は、OIST 衝撃波・ソリトン・乱流ユニットのスティーブン・ウィン技術員、同・アデル・サルミエント博士、フランス国立工芸院のNicolas Alferez博士、イミル・トゥベール准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、流体力学に関する全般を扱う学術誌「Journal of Fluid Mechanics」に掲載された。

トンガの火山噴火により大気中に形成された幅数百kmに及ぶ大気中の圧力波は、まず上方に移動して、次に外側に広がり、音速に近い平均時速1141kmで移動したことがわかっている。これは、海の深くを移動する通常の津波を時速約400kmも上回る速度だという。ちなみにこの時の津波は、地球を一周して地中海にまで到達したとする。このような津波が現代の観測機器で詳細に記録されたのは、今回が初めてのことだとした。

  • トンガの火山噴火で発生したような空気の圧力波によって引き起こされる津波と、それが地球観測衛星によってどのように検出されたかを示すアニメからキャプチャーした画像

    トンガの火山噴火で発生したような空気の圧力波によって引き起こされる津波と、それが地球観測衛星によってどのように検出されたかを示すアニメからキャプチャーした画像。同アニメは、OISTのリリース内で視聴可能。(c) OIST(出所:OIST Webサイト)

大気波は、海上を伝播する際にその下の海水に力を加えるため、通常よりも速い速度で津波が移動するようになる。太平洋で発生した津波は、通常は大陸に阻まれて地中海には到達しないが、大気波は陸地に遮られることなくその上を移動するため、今回の津波は世界中に波及し、通常の津波よりも広い範囲に影響を及ぼしたという。

  • OISTで開発された新しいモデル(右)を用いて、空気の圧力波と発生した津波を全球赤外線衛星データ(左)との比較が行われた、トンガの火山噴火のシミュレーションアニメからキャプチャーした画像

    OISTで開発された新しいモデル(右)を用いて、空気の圧力波と発生した津波を全球赤外線衛星データ(左)との比較が行われた、トンガの火山噴火のシミュレーションアニメからキャプチャーした画像。同アニメは、OISTのリリース内で視聴可能。(c) OIST(出所:OIST Webサイト)

津波早期警戒システムにおいて正確な予測をするためには、大気の波が時間の経過と共にどのように変化するかを把握することが重要なことから、研究チームは今回、トンガの火山噴火の測定値を用いて開発したシミュレータの検証を行うことにしたとする。

開発されたシミュレータは、フランス国立工芸院と共同で開発された最先端コード「dNami」が用いられているのが大きな特徴だ。そして今回の研究ではOISTのスーパーコンピュータを用いて、トンガの火山噴火発生時の地球の様子のシミュレーションが実行された。同コードを使用すると、津波の到達よりも速く高解像度のシミュレーションを行うことができるため、今後の警報システムを改善するのに役立つ可能性があるという。また、特定地点での波の到達時間や高さをより正確に予測し、リスクの高い地域を迅速に特定できるようになったとした。

さらに、ハリケーンや台風もまた、大気に乱れを生じさせて海洋に作用し、海岸線に影響を与えるような大きな水位変化を引き起こすことがある。今回のシミュレータを使用すると、典型的な嵐の条件下で海面が一定量変化した場合に海水の流れが海岸に近づくにつれてどうなるかを調べることも可能だという。それによって、嵐の際の高潮に備えるためにどのような防波システムを設置すべきかを判断できるとした。

今回の予測シミュレータを活用することで、沿岸地域で津波に対して適切な備えや対応が行われることが期待されるとしている。