竹本油脂とNTTデータ経営研究所は8月28日、脳科学的なアプローチに基づいて、ごま油の香りが食欲や空腹感、記憶などに与える効果を検証し、その香りが食欲増進効果や記憶形成を促す効果がある可能性を示唆する結果が得られたことを発表した。
ごま油は、エジプト文明のころから薬用や灯用、食用として徴用されており、インドでは伝統医学である「アーユルヴェーダ」において、薬用として病気治療や予防に活用されてきた。また中国の「神農本草経」においては、不老長寿の薬効があると記されているという。
さらに近年では、ごま油がもつ健康機能の多くが、抗酸化作用や活性酸素の働きを抑える「ゴマリグナン類」によってもたらされていることが解明されている。しかし、非常に特徴的なごまの“香り”については、食欲増進効果などが経験的に語られることはあるものの、これまで定量的に示された研究はなかったとする。
そこで今回両社は、嗅覚に起因する健康課題へのアプローチを視野に入れ、ごま油の香りが人間の記憶や食欲、空腹度に与える効果・効用を明らかにすることを目的とし、実験を行った。
1つ目の実験では、ごま油の香りが食欲や空腹感に影響を及ぼすのかを検証。ごま油とオリーブオイルの香りをそれぞれ実験室に拡散し、その前後での参加者の食欲および空腹度の変化を評価したとする。
そして香りの拡散前後における空腹感の変化量を比較したところ、オリーブオイル群、無調理群に比べてごま油群では空腹感が最も増大しており、ごま油の食欲増進効果を指示する結果が得られたとする。両社はこの結果が、ごま油の香りが参加者の食欲を増進することを示すとしている。
また2つ目の実験では、ごま油の香りを感じている間に生じた事象の記憶の定着が促される、という仮説を検証。参加者3名での雑談の最中に、ごま油およびオリーブオイルの香りを実験室内へと拡散した後、各参加者に会話内容を可能な限り多く想起するタスクを実施することで、各条件における会話内容の記憶の定着量を評価したという。
その結果、ごま油群において想起される情報の量(=記憶した数)が最も多く、次いで無調理群、オリーブオイル群の順で記憶情報量が少なくなっていくことが確認された。これを受け両社は、ごま油の香りが食事中の参加者の発話内容の記憶定着を促した可能性が示されたとしている。
食欲は人間にとって根本的な欲求の1つであり、生きていくうえで必要不可欠な要素である。また近年では、空腹感が戦略的意思決定のクオリティ向上に寄与することなどが確認されており、食欲が単なる食事への欲求以上の価値をもたらす可能性があるという。さらに、食品の持つ特性が人間の記憶に影響を及ぼすことが近年示されるなど、食品と記憶との関係にも注目が集まっている。
2社はこのことから、ごま油の香りが食欲増進を通じて人間のパフォーマンス維持や増進効果を発揮する可能性があるとし、今回の実験が新たな価値創出につながる発見だと考えるとする。
また今後は、食欲低下に伴う摂食量の低下や栄養不足が懸念される高齢者において、その病院食や介護食に今回の成果を活用することで、食欲を促す食事の開発が期待される。加えて、記憶の定着に与える影響を利用することで、認知症やうつ病といった疾患の予防プログラムの開発にもつながる可能性があるという。さらに、ごま油がもたらす効果が、ヘルスケアの観点以外にも、仕事や勉強の効率を向上させたいといったニーズにも応えられる可能性があるとしている。