東北大学は8月30日、ノッキング実験データと定量的に一致した直接数値計算結果を分析することで、極限下では燃焼化学反応が起こる火炎が、「火炎」として存在できなくなる特別な条件が存在することを突き止め、この時に起こる現象を「火炎からの激しい遷移現象」(Explosive transition of deflagration)と命名。この結果から、着火と火炎の等価理論を構築し、ノッキングとこの条件の関係を明らかにすることに成功したことを発表した。
同成果は、東北大 流体科学研究所(IFS)の森井雄飛助教、同・角田陽大学院生、インド工科大学ルールキー校のアジット・クマー・デュベイ助教、IFSの丸田薫教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、気体・液体および複雑または多相流体の力学に関する全般を扱う学術誌「Physics of Fluids」に掲載された。
ノッキングとは、ガソリンエンジンで発生する異常燃焼であり、エンジンの熱効率向上を妨げる現象として、長年の研究の対象となっている。ピストンや点火プラグから伝播した火炎による圧縮のため、未燃状態の混合気が自己着火してしまう現象であり、最悪の場合はエンジンの破壊につながってしまうこともある。
しかし、その詳細な発生メカニズムは、流体力学や化学反応の複雑な相互作用のため、完全解明までは至っていなかった。そこで研究チームは今回、実験データと定量的に一致した直接数値計算の結果を詳細に分析することで、ノッキングの発生要因を明らかにすることを試みることにしたという。
今回の研究では、研究チームが成功した直接数値計算の結果が、ノッキング実験データと定量的に一致したことに基づき、ノッキングの発生メカニズムを詳細に分析することにしたとする。その結果、極限的な条件においては、燃焼化学反応波である火炎が、火炎として存在できなくなり、激しい全体的な着火に遷移せざるを得なくなる「臨界条件」が存在することを突き止めたとした。
そこで研究チームは、ノッキングと強い関連を持つ着火と火炎に関係があるのではないかと考察。時空間変換を施し温度と燃料質量分率を規格化することで、熱の移動と物質の移動の速さの比を表す「ルイス数」が1の時、つまり熱の移動と物質の移動が同じ時に着火と火炎が等価であることを理論的に導くことに成功したという。着火と火炎は燃焼における最も基本的な現象だが、別々に研究が進められ、それらが等価であることはまったく知られていなかったとする。
さらに、ルイス数が1より小さい場合には常に火炎構造が存在すること、ルイス数が1より大きい場合には火炎構造が存在できなくなる臨界条件が存在することが確認された。ガソリン燃料の主成分の1つである「n-ヘプタン」はルイス数が1より大きいので、今回の理論からは火炎構造が存在しない臨界条件が存在するはずだという。
つまり、未燃混合気の温度がこの臨界条件を超えると、火炎は伝播することができなくなり、全体的な激しい着火に遷移しなければならない。こうした自着火こそがノッキングであるため、この閾値温度とノッキングには強い相関があるとした。また今回の研究成果によりエンジンでのノッキング発生を精度良く、かつ比較的簡易に予測することが可能になると考えられるとした。
研究チームは、今後さらなる燃焼研究や燃焼技術へとつながることを期待するとしている。