東京医科歯科大学(TMDU)は8月29日、核医学検査「18F-FDG PET/CT」における、良性疾患の「サルコイドーシス」56例と悪性リンパ腫62例のMIP画像を用いて、深層機械学習モデルを開発し、これまで不明だった両疾患の違いを発見したことを発表した。
同成果は、TMDU大学院 医歯学総合研究科 統合呼吸器病学分野の宮崎泰成教授、同・青木光大学院生らの研究チームによるもの。詳細は、欧州放射線学会が刊行する放射線医学に関する全般を扱う学術誌「European Radiology」に掲載された。
サルコイドーシスは、肺や心臓、肝臓などの臓器やリンパ節に非乾酪性肉芽種を形成する良性疾患で、そのまま経過観察となる場合や、免疫抑制療法が治療法として用いられる。一方の悪性リンパ腫は、同じように臓器やリンパ節に病変形成する造血器腫瘍の一種であり、治療として化学療法や放射線療法が行われる。
両疾患は治療方法が異なるため、その鑑別をすることは非常に重要だが、高感度に病変を検出できる18F-FDG PET/CT(グルコースアナログである18F-FDGが細胞に取り込まれることにより、代謝が活発な細胞を可視化することができる核医学検査)であっても困難だという。
そこで注目されたのが、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)だ。CNNは深層学習(ディープ・ラーニング)の一種であり、多層の畳み込み層とプーリング層を組み合わせて入力画像から特徴マップを抽出する、代表的なAI技術として知られる。CNNは医用画像研究でも用いられており、従来手法よりも高い精度を示す報告が多数されている。
研究チームは、治療前に18F-FDG PET/CTが撮影されたサルコイドーシス56症例、悪性リンパ腫62症例を後方視的に収集し、FDG異常集積部位を比較検討したという。その結果、サルコイドーシスでは縦隔リンパ節および肺により顕著なFDG集積が見られたが、悪性リンパ腫では頸部リンパ節により顕著な集積が見られた。縦隔リンパ節では、サルコイドーシス患者は#2、#4、#7、および#10リンパ節に有意なFDG集積が認められたのに対し、悪性リンパ腫では、#1のリンパ節に集積する傾向があったとする。
続いて研究チームは、FDG集積部位がわかりやすいMIP画像を用いてCNNモデルを作成したとのこと。なおMIP画像とは、3次元画像において任意の断面における最大値を描出する方法だ。このモデルは正面像と側面像をデータ拡張した後に入力し、モデル性能は5-fold cross validationで評価が行われた。研究チームは、正面および側面のMIP画像を用いたCNNモデルは、平均精度0.890、感度0.898、特異度0.907、AUC0.963を達成したとしている。
さらに、CNNモデルの判断根拠を可視化する手法である「Grad-CAM」を用いて、モデルの注目している部分の可視化が行われた。同手法では、注目している部位がヒートマップを用いて描出され、赤色で示されている部位が特に注目された部位となる。この手法により、FDG集積がある部位に着目していることが明らかになったという。
画像診断は、入力された画像から病変部を特定し、その特徴を把握することで行われる。このプロセスは医師でも機械学習でも同じだ。従来の機械学習による手法では、病変部の特定や必要な特徴量の選択は人手で行われており、時間を必要とした。しかし、近年のAI技術を用いればその必要がなく、自動化される利点があるとする。
今回の研究では、サルコイドーシスと悪性リンパ腫という鑑別が重要な疾患に対して、18F-FDG PET/CTが撮影された症例で、そのFDG集積部位に差異があることを明らかにすることに成功した。また、AI技術を用いることで、従来よりも迅速かつ高性能なモデルが提唱された。研究チームは、今回の研究をもとに将来的には、全身に病変を形成するさまざまな疾患に対して応用することにより、画像診断を発展させられる可能性が秘められているとしている。