東京大学(東大)は8月28日、ペットとして親しまれるイヌやネコのアレルゲンを、酸化チタン型光触媒が分解し、アレルゲン性の消失に有効性を発揮することを実証したと発表した。
同成果は、東大大学院 農学生命科学研究科 農学国際専攻の松浦遼介特任助教、同・間陽子特任教授を中心に、犬山動物総合医療センター、カルテックの獣医師や研究者らも参加した共同研究チームによるもの。詳細は、有害な化学物質および材料に関する全般を扱う学術誌「Toxics」に掲載された。
犬や猫にアレルギーを持つ人は全人口の10%~20%程度に至ると推定されており、大きな経済被害につながると同時に、犬や猫を保護施設に預ける主な理由の1つにもなっている。アニマルセラピーの有効性に注目が集まるなど、犬や猫の伴侶動物としての需要は世界中で高まり続けている状況であるが、アレルギーのために飼えないことも少なくなく、こうした課題を解決するため、ペットアレルギーの抑制方法を確立することが求められている。
イヌアレルギーは7種類のタンパク質(Can f1~Can f7)が、ネコアレルギーは8種類のタンパク質(Fel d1~Fel d8)が、そのアレルゲンとして同定されている。これらのタンパク質は、犬や猫の皮屑(毛や皮膚片)や唾液、尿などに含まれており、家の中のカーペットや装飾品に付着するほか、微粒子に付着して長期間空気中を漂うことが知られている。
部屋の掃除やペットを洗うことなど、従来の方法もある程度は効果を発揮するが、完全にはアレルゲンを除去できないという。また、消毒薬の利用は薬害のリスクがあることに加え、空気中のアレルゲンを取り除くことは不可能だ。そこで研究チームは今回、光触媒を用いてペットアレルゲンが分解可能なのかどうかを検証したという。
まず、酸化チタン型光触媒ガラスシート上に、イヌ皮屑粗抽出溶液およびネコ皮屑粗抽出溶液を、それぞれ100μlずつ別のシートへと滴下し、それぞれに405nmの可視光を当てることで光触媒が励起された。そしてイヌ皮屑粗抽出溶液中の主要なイヌアレルゲンであるCan f1と、ネコ皮屑粗抽出溶液中の主要なネコアレルゲンのFel d1の検出を試みたとする。
そしてこれらのアレルゲンについて、ウェスタンブロッティング法で検出を行った結果、24時間でCan f1は98.3%まで、Fel d1は93.6%~94.4%まで分解されたことが確認されたとのこと。これにより、光触媒を用いることで、犬と猫のアレルゲンを確かに分解できることが明らかにされた。
次に、これらのアレルゲンはヒトの体内でヒトIgEと結合することでアレルギー反応を引き起こすことから、分解されたアレルゲンとヒトIgEとの結合の検出が行われた。この検出では、イヌ皮屑粗抽出溶液とネコ皮屑粗抽出溶液をそれぞれビオチン化し、光触媒で処理した後に、ヒトIgEとの反応性が確認された。すると、ヒトIgEとイヌアレルゲンおよびネコアレルゲンのどちらの反応性も減少が認められたといい、24時間の光触媒反応により、前者の反応性は104.6%まで、後者の反応性は108.6%まで減少したことが確認された。つまり、光触媒によって分解されたアレルゲンが、アレルゲン性を喪失させることも証明されたのである。
続いて、実環境と同様の状況で調べるため、溶液に溶かす前の乾燥したアレルゲンについても同様の試験が行われた。酸化チタン型光触媒ガラスシート上にイヌ皮屑粗抽出物およびネコ皮屑粗抽出物をそれぞれ6mgずつ別のシートに乗せ、405nmの可視光で光触媒が励起された。すると24時間で、Can f1は92.8%まで、Fel d1は59.2%~68.4%まで分解されたという。このことから研究チームは、乾燥したイヌアレルゲンとネコアレルゲンも、光触媒で分解できることが実証されたとしている。
光触媒反応は、ヒトやペットなど生体への有害な作用がないことが知られている。また空気清浄機に搭載することで、空気中のSARS-CoV-2をはじめとするウイルスを不活化できることも、間教授の研究チームが2021年5月に発表済みだ。そのため、ヒトやペットが実際に生活している環境への応用が可能であり、生活空間周辺の空気浄化に寄与することが考えられるとする。
さらに研究チームは今回の研究成果について、犬や猫以外の動物アレルギーや、花粉アレルギーなどへの効果も示唆するものであり、光触媒のより幅広いアプリケーションへの応用が期待されるとともに、今後ますます光触媒技術の社会への貢献度が増すことが考えられるとしている。