東邦大学と徳島大学の両者は8月28日、堅牢で小型な全ファイバ型の機構共有型デュアルコムファイバレーザーの開発に成功したことを共同で発表した。
同成果は、東邦大 理学部の中嶋善晶講師、同・大学大学院 理学研究科の湯本拓実大学院生、徳島大 ポストLEDフォトニクス研究所の安井武史教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国光学会が刊行する広範な光学およびフォトニクスを扱うオープンアクセスジャーナル「Optics Continuum」に掲載された。
周波数標準や高精度分光、マイクロ波発生、系外惑星探索など多岐にわたる分野において必要不可欠な光源とされる光周波数コム(光コム)は、モード同期レーザーから出力される周期的な超短光パルス列で、櫛(Comb:コム)のような多数の周波数成分を持つことから光コムと呼ばれている。また、それぞれ成分の間隔は極めて一様で10~20台と極めて高精度である。
光コムの各周波数成分を正確に測定するには、スペクトル分解が必要であるが、通常の光コムの繰り返し周波数は100MHz程度であり、これを完全に分解するのは困難とされていた。そこで、わずかに繰り返し周波数(frep)が異なる2台の光コムを用いた「デュアルコム分光法」が提案されすでに実証されている。
同手法では、光コム1(Comb1)を測定対象(たとえば、ガス分子)に照射することで、吸収特性を光コム1の各周波数成分に記録する。次に、光コム1の各周波数成分を分解して検出するために、光コム2(Comb2)と干渉させて、その干渉信号であるインターフェログラムを取得。インターフェログラムをフーリエ変換することで、光周波数領域の信号をマイクロ波周波数領域にダウンコンバートすることが可能だ。この信号は電気信号であるため、オシロスコープなどの電子計測器による測定が可能であり、光コム1に記録されたガス分子の吸収特性の計測が可能である。
これまでの分光システムでは、2台の光コムの発生に2台の独立したレーザー光源が必要な上に、その両方が高い相互コヒーレンス性と周波数安定性が求められていた。それにより、複雑な制御が必要とされ、装置全体として大型かつ高価になり、実用化の妨げとなっていたという。
最近では、1台のモード同期レーザーを用いて、わずかに異なるfrepを持つ2台の光コムを同時に発生させる「デュアルコムレーザー」の研究が進展中だ。しかし同方法を用いても、光コムを発生するためにレーザー共振器に自由空間光学系が必要で、装置が複雑で小型化が難しいという課題を抱えていた。
そこで研究チームは今回、可飽和吸収体(Micro-optic component)と偏波保持ファイバデバイスを利用することで、自由空間光学系を不要とする全ファイバ型機構共有型デュアルコムファイバレーザーを開発することにしたという。
今回開発された可飽和吸収体を用いたデュアルコムファイバレーザーでは、偏波保持ファイバ(PMF)、エルビウム添加光ファイバ(EDF)、可飽和吸収体ミラー(SESAM)、部分反射ミラー(PRM)で構成される線形型の共振器が2台用いられる。EDFは、SESAMと集光光学系および波長分割多重カプラを含む可飽和吸収体に接続され、波長976ナノメートル(nm)の励起用レーザーダイオード(LD)によって励起される。この構成は、環境変動の影響を最小限にし、2台の光コムの相対的な安定性を高める役割を果たしているとする。
両方のレーザーの中心波長は1556nm付近であり、スペクトルの幅は約7nmだ。Comb1・2のfrepが約46.9MHzで、その差Δfrepが約180Hzである。さらに、2つのfrepが同じように変化する一方で、Δfrepは一定であり、これはレーザーの高い相対安定性が示されているとした。
開発されたデュアルコムファイバレーザーを用いて、シアン化水素(HCN)ガスの分光実験が行われると、2台の光コムは同じガスセルを通して高速光検出器に入射され、干渉信号の「インターフェログラム」が得られたとする。同信号を解析することで、データ取得時間約200マイクロ秒において分解能15ピコメートルでのHCNガスの分光スペクトルを取得することができたとした。この結果から、新しいデュアルコムファイバレーザーは、より短時間で高い分解能のガス分光を可能にしているという。
今回開発された全ファイバ型のデュアルコムファイバレーザーは、小型で堅牢なため、実際のプラントなどで使える分光装置の有力な光源となることが期待できるとする。同技術は、生産性の最適化や省エネ化を促進する可能性があり、結果としてエネルギー供給の安定性や経済性、そして環境の保護に貢献することが期待されるとした。