onsemiは、2023年5月に正式リリースしたスイッチング性能の最適化に重点を置いた同社のSiCパワーデバイス製品群「EliteSiCシリーズ」の第2世代品「1200V EliteSiC M3 MOSFET(型番:NTH4L022N120M3S)」が、動力を駆動輪へ伝達するドライブトレインの高出力化や、バッテリの大容量化、充電の高速化などを実現するためのさまざまな課題の解決に貢献することを発表した。
電気自動車(EV)メーカーは、航続距離を延ばすために車両のバッテリの大容量化を進めているが、バッテリ容量が大きくなると充電時間が長くなるという課題もある。最も一般的な充電方法として、自宅で夜間に充電するか、日中に職場で充電することなどが挙げられるが、どちらの方法もEVに供給できる電力が異なり、自宅にある家庭用コンセントでは、一晩でEVをフル充電できない可能性も出てきている。
また、車両にACからDCへと変換可能な低電力のオンボードチャージャ(OBC)が搭載されている場合、職場などに設置された中電力のAC充電ステーションを利用できる可能性があるが、その滞在時間を気にする必要が出てくる。OBCの電力容量を増やすと充電時間は短くなる一方で、システムが複雑になるため設計上の課題が増加するという課題がでてくる。また、近年ではバッテリ容量の80%まで急速充電できるハイパワーDC充電ステーションも登場してきたものの、まだ一般的ではないという。
こうした充電時間や走行距離の延伸などの両方の問題に対処するため、多くのEVプラットフォームが従来の400Vバッテリパックから800Vバッテリパックに移行を進めているが、高電圧化により、走行時のモータの出力を高めたり、従来と同じ電力レベルを維持しながらシステムの効率を向上させることを可能としつつ、充電時における充電時間の短縮も可能となるが、そうしたOBCの実現にはシステムレベルでより高い電圧に対応する必要があり、1200Vデバイスが求められるようになっているとする。
高速スイッチングアプリケーションに特化して開発され、スイッチング損失において高い性能指標を実現したM3S技術は、M1に比べてEOFFが40%低減、EONもで20~30%低減、全スイッチング損失も34%低減。また、スイッチング周波数が高くなることで、インダクタ、トランス、コンデンサなどのエネルギー貯蔵コンポーネントのサイズを小型化でき、OBCシステムのパッケージサイズの小型化も可能とすると同社では説明している。また、高電圧で動作するため、車両に必要な電流を減少させることができ、ケーブルコストの削減も可能だとしている。