横浜国立大学(横国大)は8月22日、モンゴルの国全土に広く分布する48の草原サイトにおける40年間の植物生産量および気候データを解析し、気候変動に対する乾燥地の知られざる感受性の可視化に成功したことを発表した。
同成果は、横国大の佐々木雄大教授は、鳥取大学の衣笠利彦准教授、モンゴル気象水文環境研究所のGantsetseg Batdelger博士、米・ニューメキシコ大学のScott Collins教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米科学雑誌「米科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。
乾燥地は現在、世界の陸域の4割以上の面積を占めている。しかし今後は、気温上昇および降水量変化によって引き起こされる地球規模の乾燥化によって、その面積割合は増加することが予測されているほか、近年の気候変動によって干ばつや熱波など、極端な気候イベントの頻度が増加中だ。
このような状況から、地球環境にとって基盤的な生態系機能である乾燥地の植物一次生産が、年々の気候条件(降水量、気温、乾燥度)およびその年間変動性にどのように駆動されているのかを明らかにすることが喫緊の課題となっているという。しかし、とりわけ陸域では、広域的かつ長期的な野外観測時系列データの不足により、生態系の複雑な時間動態を考慮した解析が行われておらず、気候変動に対する乾燥地の感受性の理解に限界があったとする。
そこで研究チームは今回、モンゴル全域に広く分布する48の草原サイトにおける植物の生産量および気候(降水量、気温、乾燥度)の40年間(1978~2017年)の時系列データに対し、非線形力学に基づく時系列解析を行い、乾燥地の植物生産性が気候変動によってどのように駆動されるかを検証することにしたという。
その結果、年間降水量・年間平均気温・夏季平均気温・年間乾燥度と、その変動性(数年スケールでの変動)が乾燥地生産性を駆動していることが判明。従来の研究で、降水量が少ない乾燥地では植物生産性は降水量に大きく左右することが認識されてきたが、年間および夏季の平均気温とその変動性も降水量と同程度かそれ以上に生産性への影響が大きいことが明らかにされた。このことは、将来的に見込まれる、さらなる気温上昇による乾燥地生産性への影響とそのメカニズムの理解の重要性を強調しているとした。
さらに、年間の気候条件とその変動性を変化させた場合、生産量にどのような影響が現れるのかシミュレーションが実施された。乾燥度の高いモンゴル南部地域では、年間降水量が増加しても生産量は必ずしも増加しないこと、モンゴル全域を通して年間の乾燥度が改善されても生産量は必ずしも増加しないことが導き出された。
これは、乾燥地では年間降水量が増加すれば、増加した量に概ね比例して生産量が増加するというこれまでの知見とは異なるものだという。降水量が少ない年(少雨年)の影響は、当年だけでなく少雨年の翌年や翌々年にも表れること(干ばつのレガシーという)がある。この時間遅れの効果が頻繁に現れるために、降水量と生産量は単純な比例関係にはなく、むしろ降水量の増加や乾燥度の低下に対する生産量の感受性が負になると考えられるとする。
また、気候条件の変動性に対する乾燥地生産性の感受性の可視化も同様に行い、場所ごとに異なる植生の水分および温度ストレスへの耐性に感受性が左右されることも確かめられた。
これらの結果は、全球を対象とした陸域生態系の将来予測モデルの検証に貢献することが考えられるとする。今後、生物圏から気候システムへのフィードバックを正確に予測するには、長期観測データの利用と生態系の複雑な動態を考慮した解析がますます必要とされるとした。
乾燥地は、現在すでに20億を超える人々の生活を支えており、インドやアフリカ諸国など将来的に人口の著しい増加が見込まれる地域を多く含み、地球上の主要なヒトの生活の場として重要な地域である。気候変動に対する乾燥地の感受性の理解は、これらの地域における牧畜業や農業を気候変動下で、どのように持続的に行っていくかを考える重要な科学的根拠となるという。とりわけ、世界の食肉・天然繊維需要の拡大に伴い乾燥地とそこでの人間社会が抱える負担は今後さらに増すことが懸念されるとした。
今後は、気候変動だけでなく土地利用も含め、それらが生態系に長期的にどのような影響を及ぼし将来的に生態系はどのように変化していくのかについて、長期観測や最新のデータ解析手法を用いて研究を進めていく必要があるとしている。