「K-Display 2023」展示会が、8月16-18日に韓国ソウルCOEXで開催された。Samsung Display、LG Displayを中心とし、韓国の設備メーカーや部材メーカーなど韓国ディスプレイ産業に関わる企業の出展で、OLED(有機EL)にフォーカスしたディスプレイ技術の最新動向や製造技術を見ることができる。
大画面OLEDでは、2年前まではLG Displayが白色OLEDにCF(カラーフィルター)を組み合わせた方式で製造を一社独占してきた。昨年Samsung Displayが青色OLEDにQD-CC(量子ドットの色変換層)を組み合わせたQD-OLEDを実用化したことで、これまでモバイル用OLED分野で業界を牽引してきたSamsungが大画面OLEDの分野でもOLED化を積極的に推し進めることとなった。
一方のLGは、2013年にOLED TVを上市し、ここまでの10年間のOLED大画面化の技術と市場を牽引してきた実績を前面に打ち出した展示を行った。今後この分野で韓国2社の覇権争いが激しさを増していくだろう。
一方、アジア各地に目を向けると、台湾および中国では、それぞれの地域の状況と将来に向けた方向性が見えてくる。ディスプレイの将来技術と目されるマイクロLEDである。OLED化で先行してきた韓国勢が大画面OLEDで競い合う一方で、出遅れてしまったマイクロLEDの分野でどう巻き返すのかという議論も聞こえている。
QD-OLEDで画質を強調するSamsung
Samsung Displayは、昨年2022年に発表した大画面OLEDの新しい技術であるQD-OLEDを積極的にアピールしている(図1)。当初は、QD-OLEDの製造技術の難しさや市場性に関して慎重な見方も多くあったが、市場にも広がり始めており、昨年のK-Display展示会に引き続き今年も積極的にアピールしている姿にはSamsungの意気込みを感じることができる。
今年のQD-OLEDは、昨年発表した物からさらに性能を向上させている。例えば、輝度は33%アップで2000nitを超えた。ダイナミックレンジも従来品に比べて26%以上高く、色域はBT2020で90%を達成し、応答速度も従来のLCDと比べると33倍速い。これらの特徴を説明ビデオで流す傍らで、その性能差をビジュアルにアピールするための比較デモも行っている(図2)。
大画面OLED TV開発10年の実績をアピールするLG Display
一方のLG Displayは、2013年に白色OLEDにCFを組み合わせた方式で上市して以来ほぼ10年間、大画面OLED TVパネルを一社独占供給してきた。今年のK-Display展示会では、これまで出してきた様々なOLEDパネルを並べて展示し、この10年間の実績を前面に打ち出す展示内容であった(図3)。
大画面OLEDパネルの製造は、2021年まではLG Display一社による独占状態が続いてきた。LCDパネル製造では多くの企業が乱立し激しい競争が行われた結果、技術の継続的な進化と価格低下による市場拡大が続いてきた。この間、大画面OLEDパネルを一社独占供給していたLG Displayは、いかにしてOLEDパネルを使ってもらう仲間(セットメーカ)を増やすかという点に腐心し、先行するLCDの大画面化と高精細化をひたすら追いかけてきた。その結果、輝度などの表示性能の向上は脇に置かれた形になっていた。
2022年に、Samsung DisplayがQD-OLEDを上市したことにより競争環境が大きく変わった。Samsung DisplayがQD-OLEDによる表示性能を前面に出してアピールしてきた結果、LG Displayも新たな技術開発で大画面OLEDの表示性能を向上しなければ競争から振り落とされることになる。その結果が、2022年に発表された第2世代の「EX Technology」であり、さらに2023年に立て続けに発表された第3世代の「META Technology」である(図4)。
今後も当分の間は、韓国2社による大画面OLEDの競争が続いていくことになるだろう。
アジア各地域の展示会をみるとそれぞれの特徴と将来方向が見えてくる
韓国の2社は、これまでディスプレイのOLED化を積極的に牽引してきた。その背景には、ディスプレイ産業に後発参入してきた中国のLCDへの爆投資がある。ディスプレイビジネスで収益性を確保するためにはより付加価値の高い技術・製品へシフトすることが必須であり、その戦略はこの10年間を見る限り成功してきた。そして、この韓国2社を支えてきたのが、韓国ディスプレイ産業のサプライチェーン企業であり、今回のK-Display展示会場を見渡すとその大半が、OLED関連の製造設備や部材関連の韓国系企業であることからも良く判る。OLED化の波に乗って、パネルメーカーだけでなく製造設備や部材関連の韓国系企業も育ってきた。
一方、ディスプレイ関連の展示会はアジア各地で開催されている。2023年4月19-21日には台湾で「Touch Taiwan 2023」が開催された。台湾は、OLED化の波に乗り遅れLCDでは中国の爆投資に押されてこれまで苦しいビジネスを強いられてきた。その状況を打ち破るために数年前から積極的に力を入れているのがマイクロLEDである。Touch Taiwanでは、毎年マイクロLED専用展示区が設けられ日本の設備メーカーや部材メーカーも含めた多くの企業が出展し、参観客も集まっている(図5)。
K-Display 2023開催の2週間後の8月28-31日には、中国上海で中国最大のディスプレイ展示会と会議である「DIC(Display Innovation China)2023」が開催される。中国のディスプレイパネルメーカーは、BOE、TCL-CSOT、天馬などすべてのメーカーがディスプレイ技術の全方位戦略を取っている。
これまでのLCDの爆投資で、LCDパネル供給の主導権はすでに握った。OLEDも積極的な開発と投資を行ってきており、モバイル用OLEDでは韓国勢を脅かすところまできている。一方、大画面OLEDの開発も行ってはいるが、この分野では未だ韓国に追いつくまでには至っていない。代わって力を入れているのがミニLED/マイクロLEDディスプレイである。中国にはこれまでのディスプレイパネルメーカーだけでなく、LEDメーカーも数多く存在する。これらのLEDメーカーを含めて、10社以上の多くのメーカーがミニLED/マイクロLEDの開発にしのぎを削っており、様々な展示品を見ることができる。そして今後伸びるであろうこの分野を狙って日本の設備・材料メーカーも多く出展している(図6)。
K-Display 2023展示会に併設されたBusiness Forumでは、韓国企業による講演だけでなく、台湾や中国からの講演も交えてマイクロLEDに関する講演やパネルディスカッションも行われた。そこで交わされた議論は、「韓国はこれまでOLEDでリードしてきたがマイクロディスプレイ(マクロLEDやマイクロOLED)の分野では後塵を拝している。どうやってこの分野をキャッチアップすべきか?」という危機感であった。新しい技術や産業が興ってきたときに、その主役が入れ替わることは世の常である。Business Forumの内容を含めたこのあたりの議論については、続稿で触れたい。