仏Yole Groupが、「Overview of the Semiconductor Devices Industry 2023(半導体デバイス業界の概要2023年版)」を発行し、半導体業界のこれまでの5年間と今後5年間の展望を公開した。

半導体を取り巻く世界情勢が大きく変化

同レポートでは、最近の半導体を取りまく世界情勢について、米中対立を新たな冷戦と表現し、自由市場はもはや存在せず、半導体サプライチェーンにも綻びがでていると指摘。もはや半導体業界は市場と技術だけで主導されるものではなく、地政学やマクロ経済などを含めて考える必要があるとしている。

そうした中、この5年間の半導体業界の主な変化としては、Intelの支配的な地位をSamsung ElectronicsとTSMCが奪い取ったことを挙げている。ただし台湾の巨大ファウンドリの出現は、主にAppleをはじめとする米国企業が活用しているため、部分的には米国の成功であるともしているが、台湾と中国が軍事衝突となった場合、台湾地域が世界のほかの地域から切り離される可能性があるともしている。

こうした背景から、世界中がさまざまな動きを見せており、特に注目なのが米国主導の半導体の製造拠点再編だとしている。また、中国も2025年までに1430億ドル相当の独自の産業計画を持った半導体プレーヤーとなるべく動きを見せている。そして、過去30年にわたる年平均成長率(CAGR)6.4%を超えて半導体産業が成長を維持していくために必要なための設備投資(Capex)は増加傾向にあり、それを維持していくためには毎年、売上高の約20%を新たな設備に投じる必要があるとする。

Yole Group傘下のYole IntelligenceのCTOオフィス主席アナリストであるPierre Cambou氏は、「問題は、今後 5年間にいくら投資されるかではなく、その投資がどこで行われるかである。ファウンドリへの投資を誘導するために、米国政府と欧州委員会はそれぞれ530億ドルと470億ドル相当のCHIPS法を可決している」と述べている。

今後5年間の投資動向

Yoleでは、今後5年間で世界で約8000億ドルのファブ関連投資が行われると予測し、そのうち2050億ドルが米国での投資となる見込みとしている。その投資の60%が米国企業のよるものだという。

一方のEUは610億ドル相当の投資を計画している。これには、独マクデブルクに建設された200億ドルのIntel前工程工場なども含まれており、外資による欧州への投資が全体の85%を占めている。

また、これまでに発表された全投資額の30%を韓国が占めており、台湾が同15%を占める規模となっているほか、中国勢の投資も同18%相当と今後、存在感が増す可能性が高い。

これからの半導体製造

このほか、世界の半導体ウェハ生産能力は2028年までに30%増となり、その総生産能力は月産で約1200万枚(300mmウェハ換算)に達すると予想されている。また、半導体デバイス業界の売上高は2023年は前年比7%減と予想されるも、今後5年間のCAGRは4.5%と現実的な見通しを示している。

なお、Yoleでは半導体業界が台湾の地政学的リスクをすぐに解決できる可能性は低いと指摘する一方、米国やEUが進める投資促進政策により、TSMCとSamsunguによる先端プロセスの独占状態は崩れ、Intelがオープンファウンドリ市場の第3位につけると予測している。