東京工業大学(東工大)は8月18日、2次元強誘電半導体α-In2Se3をギャップ長100nmのナノギャップ電極上に転写したボトムコンタクト構造において、面内分極を用いた新記録方式による不揮発性メモリを開発したことを発表した。

同成果は、同大 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所のShurong MIAO修士2年、同 新田亮介 助教、同 伊澤誠一郎 准教授、同 真島豊 教授らによるもの。詳細はナノスケール材料科学技術分野の学術誌「Advanced Science」に掲載された

不揮発性メモリなどの利用が期待されている強誘電体メモリだが、従来技術では不揮発性や速度、拡張性、消費電力などの課題があり、高密度化が難しいという課題があった。

そうした中、2次元強誘電半導体であるα相セレン化インジウム(α-In2Se3)は、原子層レベルで強誘電性を示し、1.39eVのバンドギャップを持つことから、高ON/OFF比や低消費エネルギーなどの特徴を有する強誘電半導体不揮発性メモリのチャネル材料としての利用が期待されるようになってきているという。しかし、これまでの研究で報告されてきたα-In2Se3メモリは、ギャップ長がマイクロメートルオーダーで、かつα-In2Se3上にソース/ドレイン電極を形成するトップコンタクト型であったため、α-In2Se3部が面外分極反転しても、チャネル部は面内分極反転しないという課題があり、ボトムコンタクト型を採用した面内分極反転に基づくα-In2Se3メモリの実現が求められていた。

研究チームでは、これまでの研究成果として電子線リソグラフィを用いることで20nm以下のギャップ長を有する白金ナノギャップ電極の作製技術を報告しており、今回の研究ではこの知見を用いて、シリコン基板上に電極間隔が100nmのナノギャップ電極を形成し、2次元強誘電半導体α-In2Se3をナノギャップ電極に転写したボトムコンタクト型のメモリ構造を作製することに挑んだとする。

  • ボトムコンタクト型2次元強誘電半導体α-In2Se3メモリの断面構造とメモリ素子のSEM像

    ボトムコンタクト型2次元強誘電半導体α-In2Se3メモリの断面構造と、メモリ素子のSEM像 (出所:東工大プレスリリースPDF)

実際に作製されたギャップ長100nmのボトムコンタクト型2次元強誘電半導体α-In2Se3メモリの電流-電圧特性は、明瞭な面内分極反転に基づく強誘電半導体の不揮発性メモリループ効果を示し、103に達するON/OFF比が得られたという。

  • ボトムコンタクト型2次元強誘電半導体α-In2Se3メモリの電流−電圧特性とリテンション(データ保持時間)特性

    ボトムコンタクト型2次元強誘電半導体α-In2Se3メモリの電流-電圧特性と、リテンション(データ保持時間)特性 (出所:東工大プレスリリース)

また、リテンション(データ保持時間)は17時間以上、1200サイクル以上の耐久性も確認され、研究チームでは、これらの結果は、開発したナノチャネルボトムコンタクト型2次元強誘電半導体α-In2Se3メモリが、面内分極を利用した新記録方式による不揮発性メモリとして幅広く応用可能であることを示唆するものであると説明している。

なお、研究チームでは、今回開発したメモリ構造について、面内分極が横方向電界によって再配列する、次世代のマルチレベルセル(MLC)に相当するさまざまな記憶状態が得られる可能性があるとしているほか、シリコン基板上に面内分極不揮発性メモリを直接構築するという簡便な方法で作製できることもあり、高密度な次世代不揮発性メモリの開発につながる可能性があり、今後は企業などと連携して実用化に向けた研究開発を進めていきたいとしている。