和歌山県立医科大学と北海道大学(北大)の両者は8月17日、植物油に含まれるリノール酸をグルコース液を投与する直前に投与すると、血糖値の上昇が緩やかになる現象をラットを用いた動物実験で発見したことを共同で発表した。
同成果は、和歌山県立医科大 医学部 解剖学第一講座の山本悠太講師、北大大学院 薬学研究院 臨床薬剤学研究室の小林正紀教授、同・鳴海克哉講師らの共同研究チームによるもの。詳細は、「Frontiers in Pharmacology」に掲載された。
炭水化物は消化されて最終的にグルコースになり、腸で吸収されて血液中の糖濃度(血糖値)を上昇させる。それにより反応するのが膵臓であり、インスリンを分泌することで血糖値は元に戻る。しかし、インスリンの効き目が悪い2型糖尿病患者の場合は、血糖値が健康な値にはなかなか元に戻らないことが知られている。
食事に含まれる油も消化され、最終的に脂肪酸やグリセリンなどの栄養成分に分解されて小腸で吸収される。小腸内には、栄養状態を監視するさまざまなセンサがあるが、それらのうちで脂肪酸の量を監視するのが受容体の「GPR40」と「GPR120」だ。
先行研究により、GPR40に反応する薬を食事の1時間前に投与すると、食後の血糖上昇時に放出されるインスリン量が増加し食後血糖が速やかに下がることがラットによる実験で報告されている。またGPR120に反応する薬を2型糖尿病マウスに1か月以上投与すると、インスリンの効き目が改善されることも知られていた。しかし、食事の直前に両受容体に作用する薬を投与する効果については、今まで検討されていなかったという。
そこで研究チームは今回、脂肪酸の一種であり両受容体に反応するリノール酸をラットに投与し、直後にグルコース液を投与した時のリノール酸の血糖値への影響について検討することにしたとする。
オリーブオイルをグルコース液投与直前に投与した群では、血糖値の上昇は30分でピークを迎え、リノール酸を投与した群ではピークが30分後ろ倒しになった。その一方で、リノール酸を多く含む油ではその効果は認められなかったという。
またその効果は、インスリンの出ない1型糖尿病ラットでも確認されたため、インスリンの働きによるものではないことが確認された。
次に、リノール酸が、小腸のグルコースを吸収するポンプ「SGLT1」の働きをブロックするのかどうかを調べるため、グルコース類似物を培養細胞「CACO-2細胞」に取り込ませる実験が行われた。SGLT1の働きに対するブロック効果のある「フロリジン」ではグルコース類似物の取り込みが減少するが、リノール酸ではこの取り込みは減少しなかった。そのため、リノール酸の血糖上昇を緩やかにする効果は、グルコースの取り込みをブロックする効果とは関係ないことが明らかにされた。
続いて、胃の動きが緩やかになると食後の血糖値の上昇も緩やかになることから、リノール酸が胃の動きを緩やかにしている可能性を考察。リノール酸を投与した直後に投与したグルコース液が、胃にどの程度とどまっているのかの確認が行われた。
オリーブオイルを飲ませたコントロール群では、胃に残っているグルコース液量はグルコース液投与後30分で25%程度だった。それに対しリノール酸が投与された群では、60%以上のグルコース液が胃に残存していたという。リノール酸の投与により、胃の動きを緩やかにさせるホルモン「GLP-1」の血中濃度が上昇していたことから、リノール酸を投与することによりGLP-1が血中に放出されることで胃の働きを緩やかにしている可能性のあることが発見された。
さらに、リノール酸に反応するGPR40とGPR120のうち、リノール酸の摂取後に血糖値の上昇を緩やかにする効果は、どちらの受容体に反応して起きている現象なのかが確認された。GPR40またはGPR120に反応する薬がラットに投与され直後にグルコース液が投与されると、GPR120に反応する薬を投与することで血糖の上昇は緩やかになったが、GPR40に反応する薬ではその効果は認められなかった。
また、健康食品成分として知られる脂肪酸の一種である「αリノレン酸」でも、リノール酸と同様の効果が認められたという。
今回の研究より、GPR120に反応する薬の新たな使用法の提唱ができ、1型糖尿病を含む糖尿病患者を対象とした新しい薬の開発の第一歩になりうることが考えられるとした。なお、今回の研究で使用されたリノール酸およびαリノレン酸は脂肪酸であり、食品や健康食品の摂取では同等な効果は認められない可能性があるとしている。