九州大学(九大)は8月17日、歴史上さまざまな文化圏で一般的に行われてきた意図的・人為的な頭蓋変形について、鹿児島県種子島にある広田遺跡から出土した頭蓋の研究から、未解明だった日本の古代社会におけるその実践を明らかにしたことを発表した。

同成果は、九大大学院 比較社会研究院の瀬口典子准教授、同・James Frances Loftus III博士、九大 総合研究博物館の米元史織助教に加え、米・モンタナ大学の研究者らも参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米オンライン科学誌「PLOS ONE」に掲載された。

意図的・人為的な頭蓋骨変形は、歴史を通じて多くの文化圏で行われてきた。しかし日本国内に限っては、これまでの研究から頭蓋変形が行われていた可能性は指摘されていたものの、詳細な検討はなされていなかったとする。そのため、意図的・人為的な頭蓋変形の習慣が日本の古代社会に存在したのか否かについては、未解明だったという。

そこで研究チームは今回、弥生時代から古墳時代にかけての大規模な墓地遺跡である鹿児島県種子島の広田遺跡から出土した古人骨について、短頭と扁平な後頭骨の特徴を持つことから、意図的に変形されたものなのか、それとも意図しない生活習慣による結果なのかを明らかにすることを目的として、研究を行ったとする。

  • 広田遺跡出土古人骨。貝製品のアクセサリーをまとって埋葬されている。

    広田遺跡出土古人骨。貝製品のアクセサリーをまとって埋葬されている。(出所:九大プレスリリースPDF)

今回の研究では、2次元アウトラインベースの幾何学的形態分析と3次元表面スキャンイメージングを組み合わせたハイブリッドアプローチを採用したとのこと。また、九州の縄文時代人と山口県西部の土井ヶ浜遺跡の弥生時代人の頭蓋骨を、比較データとして分析したとする。研究チームは、頭蓋骨形態を視覚的に評価する革新的な方法として、頭蓋骨外形状のイメージングと統計解析というアプローチを用いたとしている。

その結果、広田遺跡出土古人骨は、ほかの頭蓋骨とは明瞭に異なり、短く扁平な形態を特徴とする頭蓋骨形状であることが判明。統計解析の結果、広田遺跡のサンプルと比較した縄文時代人・土井ヶ浜弥生時代人のサンプルとの間に、有意な変異性があることが確認されたという。また、後頭部の扁平化、矢状縫合とラムダ縫合に沿った窪みの存在は、広田人の意図的で人為的な頭蓋骨変形を強く示唆するとしている。

  • 土井ヶ浜遺跡(左)と広田遺跡(右)から出土した頭蓋骨の3D画像。広田遺跡の頭蓋骨は、土井ヶ浜遺跡の頭蓋骨に比べて後頭部の後頭骨が平らになっており、意図的に頭蓋骨を変形したことがわかる。

    土井ヶ浜遺跡(左)と広田遺跡(右)から出土した頭蓋骨の3D画像。広田遺跡の頭蓋骨は、土井ヶ浜遺跡の頭蓋骨に比べて後頭部の後頭骨が平らになっており、意図的に頭蓋骨を変形したことがわかる。(出所:九大プレスリリースPDF)

研究チームは今回の研究での注目すべき点として、性別による頭蓋形態に有意な差が認められず、男女ともに意図的な頭蓋変形が行われていたことが示された点を挙げる。この習慣の背景にある動機はまだ不明だというが、広田の人々が集団のアイデンティティを保持するために頭蓋を変形させ、考古学的証拠からも裏付けられるように、貝類の長距離交易によって生じる島外あるいはソトの集団との交渉を容易にした可能性があるという仮説が立てられたとのことだ。

研究チームは、今後の研究により、この習慣の社会的・文化的意義について新たな知見をもたらす可能性が示唆されているとする。

また今回の研究で得られた知見は、古代社会における意図的な頭蓋骨変形の実践についての理解に大きく貢献するものだという。今回の研究では、高度な3Dイメージングと2D形態計測技術を用いることで、広田遺跡の出土古人骨における人為的・意図的な頭蓋骨変形の客観的証拠が確認された。そしてこれから広田遺跡出土古人骨と副葬品のさらなる調査を行うことにより、東アジアや世界における同習慣の社会的・文化的意義について、新たな知見が得られる可能性があるとしている。

  • 鹿児島県種子島の広田遺跡。各マーカーは墓が発見された場所を示し、性別とおおよその年齢層が記されている。

    鹿児島県種子島の広田遺跡。各マーカーは墓が発見された場所を示し、性別とおおよその年齢層が記されている。(出所:九大プレスリリースPDF)