九州大学(九大)は8月10日、ベトナムでの調査で得られた寄生バチの一種である「カブトバチ」類の分類学的研究を行い、16種もの新種を発見したことを発表した。

また、発見から150年近くその生態が謎に包まれていたカブトバチについて、「Loboscelidia squamosa」と命名された新種の観察の結果、卵を寄生させる対象である昆虫「ナナフシ」の卵を隠すため、地面に巣穴を掘るという性質を観察したことも併せて発表された。

  • ベトナムでみつかったカブトバチ属の新種。今回ベトナムの調査で得られたカブトバチ類の分類学的研究を行い、発見された16種の新種。

    ベトナムでみつかったカブトバチ属の新種。今回ベトナムの調査で得られたカブトバチ類の分類学的研究を行い、発見された16種の新種。(出所:九大プレスリリースPDF)

同成果は、九大大学院 農学研究院の三田敏治助教、九大大学院 生物資源環境科学府の久末遊大学院生(研究当時)、ベトナム国立自然博物館のPHAM Hong Thai博士らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、昆虫を含む動物・植物・古生物に関する全般を扱う学術誌「European Journal of Taxonomy」に掲載された。

寄生バチは、ほかの昆虫に卵を植え付け、そこで孵った幼虫が植え付けられた昆虫を生きたエサとして内部からむさぼり食うなど、その生態が特徴的な昆虫である。この性質は、ホラー作品の題材として扱われることもある。

あまり近寄りたくない生態をもつ寄生バチではあるが、研究者からは、生態系の調節機能を担うという重要な役割をもつと認識されている。また、その種多様性や生活史がわかっていないグループがいまだ数多く存在することも、特徴の1つとなっている。

寄生バチの一種であるカブトバチ類は、不思議な姿をした「セイボウ」の仲間で、ナナフシの卵に寄生すると考えられている。日本では沖縄県の西表島に1種が分布しているが、その多様性の中心は熱帯・亜熱帯アジアにある。カブトバチ類の発見からは150年近く経っているが、その生態などについては謎に包まれており、いまだに生態観察に成功した例はないという。そうした中で研究チームは今回、ナナフシの卵に寄生するハチ類の多様性解明のため、ベトナム各地で野外調査を実施したとする。

そして調査の結果、カブトバチ属のサンプル中に多数の未記載種が含まれていることが判明。形態的特徴に基づいて、16種が新種として発表された。これにより、ベトナム産のカブトバチ属は合計24種となり、世界のカブトバチ類の種数が一気に3割以上も増加したという。

また、新種のうちの1種であるLoboscelida squamosaのメスにナナフシの卵を与えて観察したところ、メスは頭で土に穴を掘り、寄主となるナナフシの卵を隠すという、カブトバチ類の一連の寄生行動の様子が観察されたとのことだ。

  • ナナフシの卵を運ぶカブトバチ。

    ナナフシの卵を運ぶカブトバチ。(c)Hisasue et al.(出所:九大プレスリリースPDF)

カブトバチ類は稀な寄生バチと考えられていたが、今回の研究成果により、現在の理解よりもはるかに個体数が多く種多様性も高い寄生バチである可能性が出てきたとする。さらに研究チームによると、今回明らかにされた産卵行動は、寄生バチよりも、狩りバチで見られる巣作りの習性に近いと考えられるといい、カブトバチの形態的多様性と生活史の研究を進めることで、ハチの仲間の産卵行動の進化や、不思議な形態の謎を解き明かすヒントになることが期待されるとしている。