週に7回以上、浴槽の湯につかり入浴している高齢者は、週0~6回入浴している高齢者に比べてうつ病になる割合が低いことを、東京都市大学人間科学部の早坂信哉教授(公衆衛生学・在宅医療学)らのグループが明らかにした。特に冬場のうつ病発症率が有意に下がった。高齢者はうつ病発症をきっかけに介護状態に陥ることが多く、毎日の浴槽入浴がその防止につながる可能性があるという。

今回の調査では、「JAGES(日本老年学的評価研究)」で全国14自治体の65歳以上の高齢者を対象に2010年、2016年に実施したデータを用い、夏と冬の浴槽入浴の頻度とうつ病発症との相関を調べた。JAGESは高齢者の社会活動や身体の状況についての実態調査。大学や各研究機関などが共同で長寿大国日本にはどのような因子が関わっているのかを調べたり、健康格差を是正したりすることを目的に行っている。

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    うつ病を防ぐためには毎日、湯船に入浴する方が良い。高齢者のうつ病は介護状態に直結するため、介護予防にもなる

早坂教授らは「入浴は高齢者にとってヒートショックの問題など負の側面が多いとされているが、プラスの面もあるのではないか」との観点から調査を実施。浴槽入浴の回数が週0~6回の群と、7回以上の群に分け、2010年に自立していて、うつ病と診断されていない高齢者が6年後の2016年にどういう診断を受けたかという追跡研究を行った。解析に際しては年齢、性別、治療中の病気の有無、飲酒や喫煙の有無などを調整した。

その結果、6年後のうつ病発症率は夏場で週の浴槽入浴回数が0~6回の群は12.9%、7回以上の群は11.2%で、冬場では0~6回の群は13.9%、7回以上の群は10.6%に抑えられ、特に冬場に有意差が見られた。うつ病は季節によって発症率が変わるとされており、日照時間の短い冬場の方が好発するが、季節の差を抑えて有意に発症リスクを下げた。

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    高齢者の週あたりの入浴回数とうつ病発症の解析結果の比較。冬場は有意にうつ病リスクが減少している(東京都市大学提供)

早坂教授は現在、月に数回、訪問診療も行っている。だが、若年者のうつ病と違い、高齢者は食欲が無くなったり眠れなくなったりすると医師に訴えても「老化」によるものとみなされることもある。「死にたい」という希死念慮の訴えがあって初めてうつ病と診断され、抗うつ薬などの投与で改善するケースもある。うつ病は介護状態を誘発し、健康寿命を縮めることにつながる。そのため早坂教授は「入浴することで、『気持ちが良い』や『よく眠れる』といった短期的な利点ではなく、長期的に健康であることやうつ病を防ぐためにも毎日入浴した方が良いことが示唆された」と話した。

だが一方で、この酷暑の中で入浴するのも体力を使う。シャワーで簡単に済ませたいと思う人も多いだろう。早坂教授は今の時期の良い入浴方法について「体温が0.5℃上がるといい入浴とされている。水分を取ってから、38℃~40℃のぬるいお湯に10分以内でつかり、汗ばむ程度にとどめる。風呂上がりにも水分を取る。汗だくになるまで入らない方が良い」と話している。

研究は日本学術振興会の科学研究費助成事業と日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受けて行われた。成果は日本温泉気候物理医学会の「ザ・ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ソサイエティ・オブ・バルニオロジィ・クライマトロジィ・アンド・フィジカル・メディスン」電子版に7月24日に掲載され、同日、東京都市大学が発表した。

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