大阪大学(阪大)、九州大学(九大)、COGNANOの3者は8月9日、薬の標的となる分子(バイオマーカー)が発見されていない難治がんである「トリプルネガティブ乳がん」(TNBC)のための抗がん剤開発に乗り出したことを共同で発表した。
同成果は、阪大大学院 薬学研究科の井上豪教授、同・大学大学院 生命機能研究科 日本電子 YOKOGUSHI 協働研究所の難波啓一特任教授(常勤)、九大大学院 薬学研究院の大戸茂弘教授、COGNANOの共同研究チームによるもの。
バイオマーカーが不明な疾患を「アンメットメディカルニーズ」と呼ぶが、今回の対象であるTNBC以外にも膵がん、胆管がん、肺小細胞がんなど、多くの疾患が未解決のまま残されており大きな課題となっている。
その1つであるTNBCは、乳がんの治療標的となる3つの受容体が欠如していることからその名で呼ばれており、日本では全乳がん患者数の約15%にあたる約1万3800人が、世界では約30万人の患者がいると推定されている。同乳がんは、バイオマーカーが発見されていないために治療法が確立されておらず、治療のための創薬が困難だった。
今回の事業は、「新規がんマーカーを標的とするVHH創薬の高速プラットフォーム戦略(トリプルネガティブ乳がんADC創薬のフィージビリティスタディ)」の名称で、令和5年度創薬シーズ研究開発費補助金として採択されたことが、8月9日の大阪府知事定例記者会見において発表された。そして、3者が共同して新規バイオマーカーを認識する抗体を用いて抗体薬物複合体(ADC)の開発に向けて研究を進めるとする。
3者の役割だが、まず、ビックデータとAI技術を用いた、新規バイオマーカーの採掘技術を有するCOGNANOは、TNBCのがん細胞表面を特異的に認識するアルパカ由来抗体(VHH)を発見した実績を持つ。なおVHHとは、アルパカなどのラクダ科動物が持つ単純な抗体のことをいう。
今回の事業でも、COGNANOが開発した莫大な抗体遺伝子情報のビッグデータを解読する世界初の技術を用いて、TNBCのバイオマーカーの新規探索を行う。そして、COGNANOの方法論に合わせて、阪大の井上教授と、九大の大戸教授らの研究チームが協力してデータ取得を高速化するという。
また、タンパク質などを瞬間的に凍結させることで構造を保ったまま観察することが可能である、阪大と九大で連携して開発した最新のクライオ電子顕微鏡を活用するとし、同顕微鏡を駆使してVHHなどの抗体ががん細胞とどのように結合するのか詳細な分子構造を解明するのと同時に、抗体に抗がん剤を結合させたADCを開発して抗がん剤を患部に直接送達する治療効果をマウスモデルで検証する予定とした。
3者は今回の事業でデータを蓄積し、まだ治療法のないTNBCに対する創薬の問題を高速に解決することを目指すとしている。また今回の事業により、TNBCのみならず、上述した数々のアンメットメディカルニーズを克服する創薬のモデルケースを樹立できると期待されるとした。